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オペレーションは人生にも必要 「医者になりたい君へ」著者 須磨久善さん

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オペレーションは人生にも必要 「医者になりたい君へ」著者 須磨久善さん

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仕事、そして人生へのメッセージを著書に込めた須磨久善さん=2014年4月22日、東京都渋谷区(塩塚夢撮影)  【本の話をしよう】

 日本初の難手術「バチスタ手術」を成功させ、世界の一線に立つ心臓外科医・須磨久善さん(64)。著書『医者になりたい君へ』に、未来を担う子供たちへの熱いメッセージを込めた。単なる職業解説本ではなく、仕事、そして人生を乗り越えるためのヒントが詰まっている。

 「神に祈る手」

 日本初の手術を成功させ、数千人の命を救ってきた。NHKのドキュメント『プロジェクトX』出演の際には、「神の手」と称された。だが、「外科医の手は『神の手』ではない。むしろ『神に祈る手』だ」と言い切る。

 その謙虚さは、著書の構成にも表れている。序章「はじめに」で示すのは、医師として最初に出会った死のこと。「医師は、命と直接付き合う仕事。助かる命もあれば、去っていく命もある。死の実感を持たないと、続けることはできない。亡くなった人のことを覚えている。その苦しい積み重ねがあるから、医師を続けられる。忘れてしまったら楽になれるかもしれないけど、苦しい経験の中にこそ、次の手術への教訓があるから」

 かといって、死の恐怖に引きずり込まれてはならない。そこで必要となるのが「イメージトレーニングだ」と説く。「ネガティブイメージをいかに乗り越えるか。それは医師という仕事にとどまらず、全ての仕事、そして人生につながっていく。どこに行っても、壁は必ず立ちふさがる。それを越える力を持たねばならない」

 収入でも肩書でもない

 著書にはそのための方法が、自らの医師としての軌跡とともに示される。医師をアスリートにたとえた章では、チームワークとリーダーシップ発揮のためのポイントを。「怖さとの闘い」「救えなかった命」の各章では、自身の不安と挫折を率直に記した。「抽象的な言葉だけでは、単なるお説教になってしまう。実例をあげながら、挫折があってもくじけず、いかに前に進むかを書きました」

 リスクを刻み込んだ上で、事前の頭の中で成功イメージを作り、それでも立ち向かっていく覚悟。「ここで書いたのは『人生の方法論』。手術を『オペレーション(作戦)』というけれど、目標を立て、作戦を練り、いかにそこに到達するかという行為は人生にも必要とされる」

 医師として医学の発展に寄与してきたが、その一方で子供たちに実際に手術の様子を見学してもらう「病院見学」など、医師の仕事を外部へと積極的に発信してきた。「病院に来る機会は病気のとき以外なかなかない。けれど、子供たちが本物の医療現場を見て感動して、医者や看護師になりたいと思ってくれれば、どんなにステキだろうって」

 本書は中学生に向けたシリーズの中の一冊としての位置づけだが、メッセージは子供だけに向けたものではない。「収入でも肩書でもなく、子供たちに『これが自分の仕事だ』と胸を張って見せることができる仕事をしよう、ということかもしれないですね」。厳しく、熱い。命と仕事への真摯な思いは、大人の胸をも震わせてくれる。(塩塚夢、写真も/SANKEI EXPRESS

 ■すま・ひさよし 1950年、神戸市生まれ。大阪医科大学卒業。須磨ハートクリニック院長、順天堂大学客員教授。世界初の胃大網動脈を用いた冠動脈バイパス手術や日本初のバチスタ手術を成功させた。NHK「プロジェクトX」への出演のほか、ドラマ「医龍」「チーム・バチスタの栄光」などの監修も務める。他の著書に『タッチ・ユア・ハート』。

「医者になりたい君へ」(須磨久善著/河出書房新社、1296円)

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