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科学
3Dプリンターの医学応用 大和田潔
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肺反転移植のイメージ=2014年5月14日
「右肺の一部を左側に移植 京大病院が世界初の手術に成功 3D模型で事前に検討」(MSN産経ニュース5月14日付)という画期的な医療技術が報道されました。進行性の肺の病気にかかった奥さまの左の肺に、旦那さんの右の肺を移植したというものです。
通常移植は、血管などの位置の問題から同じ側に行われます。左右逆に移植できるかどうか、ご夫婦のCTの情報を元に3Dプリンターを用いてモデルを作成し、旦那さんの右肺を奥様の左肺に移植するシミュレーション後に手術が行われました。伊達洋至先生(京都大学医学部呼吸器外科長)によると、「そのものだった。ちょっと感動しました。これぴったりやねって」と報道されています。
さらっと報道されていますが、実はとても画期的なニュースです。ひとのミニチュアも、精密に作れるようになりました。3Dスキャナと呼ばれるレーザーで「表面の」色や形を読み取る装置で人間の様子をスキャンし、そのデータを元に3Dプリンターで立体にします。本物そっくりのミニチュア模型であるフィギュア人形ができるので、感動的です。
今回の移植では、CTスキャンで体の「内部」の臓器をスキャン。血管や気管などと複雑に組み合わさった肺を忠実に立体模型として再構築したものです。動画を見ると血管や気管、肺実質を別個に作って組み合わせていました。スキャナと3Dプリンターで立体コピーを作るという作業は共通です。
夫妻双方の肺の精密模型が手に入ったわけですから、事前にさまざまな検討が行えます。将来的には、細胞でモデルを作ることができるようになれば、移植臓器自体も3Dプリンターで作れるようになるかもしれません。実際、骨や薬学の分野では応用されつつあります。
3Dプリンターで拳銃を作ったという報道が流れたばかりでした。その流れを断ち切るような、爽やかな報道です。新しい技術は、そのものには善悪はありません。人間の使い方次第で、技術は善にも悪にもなりえます。3Dプリンターのテクノロジーは、ますます医療の分野で応用されていくことでしょう。人々を守る技術として成長していくことを切に願わざるを得ません。(秋葉原駅クリニック院長 大和田潔/SANKEI EXPRESS)