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科学
3Dプリンターで“希望の義手” 英技術者、ハイチの孤児にプレゼント
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ハイチ・首都ポルトープランス 中米カリブ海の島国、ハイチの施設で暮らす生まれつき両指がない孤児のために、米国に住む英国人コンピューターソフト技術者が南アフリカ在住の大工と協力し、3Dプリンターで義手を作製。孤児は米国から送られてきたその義手を5月20日までに装着し、生まれて初めてキャッチボールなどを楽しんだ。
3Dプリンターは自動車部品や医療用模型などへの活用が期待される一方で悪用の懸念も根強く、(5月)8日には拳銃を密造した大学職員(27)が摘発されたばかり。海外では内戦で手や腕を失ったアフリカの子供たちに3Dプリンター製の義手を贈る運動も始まっており、日本でも社会に役立つ利用法が問われている。
「素晴らしい手だよ。風船も持てるし、バスケットボールで点も取れる。テレビのリモコン操作もできるし、友達のために車いすを押すこともできる。ペットボトルもかばんも持てる。すごく気に入っている」
ハイチの首都、ポルトープランスの児童養護施設で暮らすスティーブンソン・ジョセフ君(12)は、同じく首都にある病院で自分の左腕に取り付けられたばかりの義手でボール遊びをしながら、笑顔を振りまいた。
ロイター通信や英紙インディペンデント(電子版)などによると、ジョセフ君は3歳の時、親に捨てられたため施設で成長し、30万人以上が死亡した2010年のハイチ地震の発生直後、地震で手足を失った患者に義手や義足を取り付ける専門医療チームが拠点としていたベルナルド・メブス病院に送られた。
しかし、医師らはジョセフ君には何もできなかった。専門チームのトーマス・イワラ技師は「ジョセフ君のように先天的に指が欠損している場合、手術も不可能で、手の施しようがなかった」と当時を振り返る。
ところが昨年(2013年)、支援事業でハイチを訪れた在米英国人のソフト技術者ジョーン・マーシャルさん夫妻がジョセフ君と偶然出会った。
マーシャル氏は「彼の障害は大したことはない。彼には(回復する)可能性がある」と判断、3Dプリンターを使った義手の作製に着手した。
米カリフォルニアの自宅に戻ったマーシャルさんはまず、南アフリカの大工、リチャード・ヴァン・アズさんに協力を求めた。アズさんは11年、のこぎり作業中の事故で自分の指数本を切断したのを機に3Dプリンターで義手「ロボハンド」を製作。昨年(2013年)6月には、生まれつき右手の指がない南ア在住の5歳のリアム・ディペナー君に向け、160ポンド(約2万7000円)でロボハンドを製作していた。このニュースを新聞記事で知っていたマーシャルさんは、早速アズさんに連絡をとり、先月(5月)、できたばかりのロボハンドがジョセフ君に届いた。
喜ぶジョセフ君の姿を見て、イワラ技師は「彼の成功例が最も重要な基準となるだろう。『ロボットハンド』で彼もわれわれも幸せになれる」と話した。ジョセフ君は義手に慣れる訓練を続けており、将来的には文字を書くこともできるようになるかもしれないという。
南スーダンでは、内戦で両腕を失った難民のダニエル君(16)に3Dプリンター製の義手が贈られ、ダニエル君は約2年かけて義手を使いこなせるようになった。
これを受け、アフリカに約5万人いるといわれる手や腕を欠損した子供たちに義手を贈る慈善運動「プロジェクト・ダニエル」が活発化している。(SANKEI EXPRESS)