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経済
ウォール街が決める日本の株式相場
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消費者物価と雇用者報酬の推移(1997年~2013年)、※各年12月
読者の中には、1月から始まった年100万円までの投資が非課税となる少額投資非課税制度(NISA)に加入して、株式投資を始めた方々も多いだろう。日経平均株価は12月末に比べて約1割安いが、短期的な株価の変動にやきもきしても始まらない。問題は中長期的なトレンドである。
日経平均株価は安倍晋三内閣が発足した2012年12月以降、1年間にわたって大きく上昇した。当初は「アベノミクス」への期待先行で始まったが、間もなく日銀による異次元の金融緩和、機動的な財政出動が実現し、円安と米株高に支えられて株価反転にはずみがついたが、14年1月に失速した。
実は、日本の株価を決める主役はニューヨーク・ウォール街である。日本の株式売買シェアの6、7割は「外国人投資家」が占めているが、その「外国人」の総元締めがウォール街の投資ファンドや機関投資家である。彼らにとって日本の国内要因は日本の株価の売り買いの材料ではあるが、問題はどう解釈されるかだ。たとえば、規制緩和にしても、何が対日評価に結びつくかは不確かだ。
ウォール街の投資家は米国株を主に、日本株を含む海外株で構成するポートフォリオ(運用資産配分率)を組んで、コンピューターによる自動売買プログラムで高速取引する。いずれもドル建てで計算し、一定期間は国、地域別の株式保有比率を変えない。となると、米国株式相場が上がって、ポートフォリオに占める米国株時価総額が上がると、日本株など外国株も買い増す要因になる。でないと、米国株の保有比率が上昇してしまうからだ。もう一つ、円安も日本株買い増しの要因になる。円安はドル建て換算した日本株時価総額を減らすから、自動売買プログラムは日本株買いに向け作動する。
アベノミクス始動に伴う円安基調はダウ平均の上昇基調と重なって、ウォール街のコンピューターをして日本株買いに走らせた。ところが、円安基調は昨年(2013年)末から今年1月にかけて止まり、「円安=株高」の方程式が消滅した。それでも米国株が上昇している分だけ、日本株も買われるはずなのだが、1、2月以降、日経平均は停滞を続けている。その原因は、ウォール街の投資家たちが、日本株の保有比率を引き下げたからである。
米財務省統計(最新データは2月分)から米国の投資家による海外株の国、地域別保有比率の推移をみると、日本株の比率は12年12月からほぼ一貫して上昇し、昨年(2013年)後半には9.3%前後にほぼ固定されていた。ところが今年2月には8.9%に下がった。中国、ブラジル、ロシア、メキシコ、トルコなど新興国株式の比率は12年末から下落基調が続いている。逆に、米投資家はユーロ圏の比率を昨年(2013年)半ばから引き上げている。海外保有株全体に占めるユーロ圏株式の比率は12年11月で18%台だったが、ことし2月には22%台だ。米国の投資家たちは、海外株のうち欧州株へのシフトとともに、新興国や日本株離れに転じたのだ。
グラフは日本、ユーロ圏および新興国の株価指数の推移を追っている。一目瞭然、ウォール街の投資戦略通り、13年3月あたりからユーロ圏の株価が上昇するのと対照的に新興国株式相場が下落に転じ、低迷が続いている。日本株はアベノミクス開始とともに力強く上昇してきたが、13年12月をピークに今年1月からは停滞が続いている。このトレンドはまさしく世界の株価がウォール街の思惑によって大きく左右される現実そのものである。
ウォール街のポートフォリオ戦略を考えると、日本株価の回復は海外市場、特にユーロ圏と新興国の経済、市場動向次第のように思える。ユーロ市場は小康状態を続けているが、危機の根が消えたわけではない。新興国市場全体の評価に大きく影響する中国の不動産バブルは北京の指令で崩壊を免れているものの、崩壊不安はくすぶり続けている。輸出の不振や内需の伸び悩みを補ってきた不動産開発投資に代わる中国経済成長の牽引(けんいん)車が見当たらない状況だ。中国の実物経済を最もよく反映する鉄道貨物輸送量はこの1~3月期、前年同期比マイナス3.5%で不動産相場の下落に連動している。
欧州や新興国市場の先行きを考えると、ウォール街によって日本株が再評価されるチャンスは十分にあるはずだ。しかし、懸念されるのは4月からの消費税増税に伴う国内景気の下降圧力だ。総務省統計局によれば、4月の家計実収入は前年同期比で実質7.1%減、家計消費は6.9%減となった。消費増税前の駆け込み需要の反動減は1997年度の消費増税よりも大きいうえに、家計のフトコロ状態は急激に悪化している。ウォール街が日本の景気の先行きをどう判断するか、気になるところだ。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS)