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愛しのラテンアメリカ(10)グアテマラ コーヒーで感じた日本との距離

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愛しのラテンアメリカ(10)グアテマラ コーヒーで感じた日本との距離

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湖は市民の生活の一部になっている=2014年6月1日、グアテマラ・サンペドロ・ラ・ラグーナ(緑川真実さん撮影)  グアテマラは、メキシコの南東側に位置する中米の国。私が滞在したサン・ペドロ・ラ・ラグーナは、約8万4000年前の噴火で誕生したカルデラ湖、アティトラン湖周辺に点在する先住民マヤ系民族の村々のひとつだ。

 村の女性の大半は民族衣装を着て、会話もマヤ系言語が飛び交うなど伝統を受け継いでいる。その一方で、スクーターや、サングラス、屋外コートでするバスケットボールなど現代的な物質文明にもなじみ、保守的な雰囲気はない。観光客にも慣れており、メキシコの先住民とは違って、積極的に外国人とコミュニケーションをとり、カメラを向けても笑顔で応えてくれるなど愛嬌(あいきょう)がある。

 また、観光の他にコーヒー産業に携わっている住民が多く、夕方になると作業着姿で長靴を履いた男性が、70キロはあるだろうズタ袋いっぱいのコーヒーの実を背負って、一歩一歩踏みしめるように山から下りて来る。麓を走る未舗装の道には数十メートルおきにお手製の重量計が設置され、収穫したばかりのコーヒーの実が換金される。周辺には男たちの家族も迎えにきており、夕暮れ時、付近はちょっとしたにぎわいを見せていた。湖畔の大豆色に染まった一帯は、整地用のトンボでまんべんなく乾燥したコーヒーの実を広げる作業に男性たちがいそしんでいた。

 日本に帰国して「グアテマラ」の国名を耳にしたのは、たった一度だけ。スターバックスの注文カウンターで店員が「本日のコーヒーはグアテマラ産の○○」と説明したときだった。グアテマラで実際に目にしたコーヒー労働に携わる、真っ黒に日焼けした男たちと、スターバックスコーヒーの無機質な空間に響く「グアテマラ産コーヒー」から浮かんだイメージはかけ離れていて、遠く離れた2つの国の距離を物語っているようだった。

 ≪美しい湖畔に湧く黒い噂≫

 「グアテマラ産コーヒー」で思い出すのは、メキシコでも聞かれた、大企業や大国絡みの黒い噂だ。

 耳にしたきっかけはアティトラン湖周辺の、村から村を移動するピックアップトラックの荷台で交わされた会話だった。首都に住む旅行者のグアテマラ人男性が道沿いにあるコーヒーの木の状態が悪いことに気づき、地元の女性に理由を尋ねた。すると女性は「ヘリコプターがある日突然現れ、上空から液体を散布してから、木の具合がおかしくなった」と意味深なことを言った。その後に、あくまで噂話と前置きして「畑の下に鉱山があって、政府は外国企業に売却したいらしい」と困ったような表情を見せた。

 同様の「コーヒーの樹が枯れた」話は他にも多々有り、大企業が市場を独占するため、など理由は色々ささやかれているが、真相は誰にもわからない。

 市民のただの被害妄想か、または事実だとしたら本当に気の毒だと思う。他にも、冷戦時代は山奥の村にまでCIA(アメリカ中央情報局)が潜んでいたなど、風光明媚(めいび)な湖畔の風景からは想像もつかない物騒な話は、次から次へと湧くように出てきて、何とも言えない複雑な気持ちになった。(写真・文:フリーカメラマン 緑川真実(まなみ)/SANKEI EXPRESS

 ■みどりかわ・まなみ 1979年、東京都生まれ。フリーカメラマン。高校時代南米ボリビアに留学、ギリシャ国立アテネ大学マスメディア学部卒業。2004年のアテネ夏季五輪では共同通信社アテネ支局に勤務。07年、産経新聞社写真報道局入社。12年に退社後、1年半かけて世界ほぼ一周の旅。その様子を産経フォト(ヤーサスブログ)とFBページ「MANAMI NO PHOTO」でも発信中。好きな写真集は写真家、細江英公氏の鎌鼬(かまいたち)。

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