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【花緑の「世界はまるで落語」】(26) めちゃくちゃハードな前座時代
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黒文字は落語家、朱文字は色ものさん…と、出番を手書きした楽屋張り。寄席って盛りだくさんでしょう?(柳家花緑さん撮影) 寄席は落語家のホームグラウンド。私も中学を出た15歳から「前座」として寄席で働き出した。
前座という身分は3~4年続き、基本休みなし。毎日、毎日、働きます! 楽屋でお茶をいれ、師匠方の着付けを手伝い、脱いだその着物もたたみ、落語の間に舞台に出てきて座布団を返してめくりをめくる「高座返し」を行い、出囃子の太鼓もたたく。
東京都内の寄席は、上野鈴本演芸場、新宿末廣亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場、国立演芸場の5軒。上席(かみせき、6月1~10日)・中席(なかせき、6月11~20日)・下席(しもせき、6月21~30日)と、1カ月を10日ごと、3つに区切り、それぞれ昼席と夜席がある。それぞれ期間・時間帯ごとに内容は異なる。つまり、1つの寄席だけで1カ月に6つのプログラムが楽しめるというわけ! そして31日のある月は、余った一日の会で「余一会」(よいちかい)と題して昼夜特別興行が行われている。
前座のころは、この5軒の寄席を10日間が終わると次の寄席、また次の寄席という感じに回っていました。それに昼席か夜席かで10日間、毎日の生活のリズムも変わります。
分かりやすく私の弟子の前座、柳家圭花(けいか)の2カ月を見てみましょう。
4月上席は池袋の夜。4月中席は上野の夜。4月下席は上野の昼。5月上席は上野の夜。5月中席は新宿の夜。5月下席は浅草の夜。2カ月間、4月21~30日以外はすべて夜席でした。これもたまたまのこと。ずっと昼席が続くこともある。
昼席は午前11時から午後5時。夜席は午後4時から午後9時までが前座の拘束時間で、そのさなか地方や都内のホール落語会を頼まれて仕事に行く前座もいて、その穴埋めを前座同士が「ちょっと圭花さん、上野の夜席の前に浅草の昼席も代わりに行ってくれる?」と頼まれて昼夜で働いている光景は日常茶飯事である。これが3年以上続く。当然、つらくて辞めちゃう人もいる。
僕が前座のころは3年間で7人くらい辞めました。その次の身分が「二ツ目」そして「真打ち」。二ツ目以降は自分の出番の時間に合わせて寄席に行けばいい。その寄席には基本的に真打ちが出演。私が撮った楽屋張りの写真をご覧いただくとお分かりのように、昼夜共に初めの右寄りに“交互”と書いてある人々が二ツ目で、後はすべて真打ちである。
今回の写真は今年の4月上席(4月1~10日)の楽屋張りです。
昼の部のトリが入船亭扇遊師匠。そして夜の部は私、花緑がトリを務めました。デジタルな時代になっても、この楽屋張りだけはいまだに手書きなんです。落語協会の事務員さんが書いているもので、朱色で書かれた方々は俗に言う“色ものさん”。落語の間に色を添えていただく役目。時間割が上の方に書いてありますが、1時間に3人~4人。持ち時間は15分や20分。基本的に時間は厳守。少しでも延ばせば次の演者の時間は無くなります。私も20代のころ、15分のところを20分演っちゃって、お後の先輩にすごく怒られた経験があります。
トリは30分くらいしゃべります。大ネタといわれる長い噺を演ることができて、入り口に幟(のぼ)りや看板がひときわ大きく飾られ、そのトリを目当てにお客さまは集まってきます。もちろん面白い人がいっぱい出ていると、お客さまは増えるから全体の顔付けがビシッと決まることが寄席は大事なんです。
そしてそれぞれの寄席で違いはありますが、池袋演芸場は昼夜入れ替えなし! 2500円で、何と午後12時30分から午後8時30分まで、ずーっと聞いていられるという夢のようなひととき!
一人で行う独演会は、言ってみれば個人競技。寄席は、駅伝や、次々バトンを渡していくリレーなどを見るような魅力。まだ行ったことのないあなたにぜひオススメです!(落語家 柳家花緑/SANKEI EXPRESS)