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科学
浦島太郎と桃太郎 大和田潔
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私は、小栗旬(しゅん)さん(31)が登場する清涼飲料水のCMがお気に入りです。桃太郎をモチーフにしたもので、桃太郎役が現代風で格好良いだけでなく、犬やサルはストリート系ファッションをまとい、高い身体能力を発揮して演じられています。キジは、ブラジルのサンバに出てくるような衣装。鬼は、内部に炎がともり全身から煙があがる無表情で巨大で恐ろしい怪物として描かれています。桃太郎たちが船に揺られて夕方の海を渡っていく姿は、映画の一場面のようです。
桃太郎と同じぐらい有名な日本の昔話に、浦島太郎があります。カメを助けた浦島太郎は、竜宮城で楽しいひと時を過ごし、玉手箱を渡されます。陸上に戻って開けてみると、中は煙だけ。カメを助けるという良いことをしたのに、余命少ない年寄りになってしまいます。子供の頃から私は、楽しかったので時間の経過に気付けなかったのかも、あるいは、海の底では時間の流れ方が違っていたのかも、と勝手に解釈していました。
最近、別の理由として玉手箱は女性が使うものだ、という説を耳にしました。地上の妻に、玉手箱を見せて自慢をしたとたんに、浦島太郎が年老いてしまったというものです。玉手箱が海の底の女性の存在を知らせて、妻と不仲になって加齢が加速したのかもしれません。女性の恐ろしさというよりも、以前読んだ医療的な報告を思い出し、示唆されるものがあると感じました。
寿命を縮めるさまざまなリスクについて、米ピッツバーグ大学のコーエン教授がまとめた「a catalog of risks(リスクのカタログ)」という有名な報告があります。リスクの大きな順に、過剰なアルコール、喫煙、配偶者との死別や離婚を含め独身であること、肥満と続きます。メタボリックシンドロームのリスクよりも、妻や夫を失う孤独の方が寿命に影響を与えるという報告です。
パートナーがいる方が長生きだという事実は、人間はコミュニケーションが必要な社会的な生物であることを示しています。生き生きと暮らしていくためには、体だけでなく心の健康も必要です。昔話は、いろいろなことを教えてくれます。桃太郎のCMを別の側面から眺めるのも楽しいものです。(秋葉原駅クリニック院長 大和田潔/SANKEI EXPRESS)