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がん細胞に寿命「教える」RNA 大和田潔

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がん細胞に寿命「教える」RNA 大和田潔

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 【青信号で今週も】

 がん治療は、医療の永遠のテーマです。がん細胞は、自分の細胞から生まれてきて秩序なく増殖し周りの臓器を侵食したり、転移した先の臓器を破壊したりします。私たちの命を脅かす存在となっていきます。

 どの細胞にもテロメアと呼ばれる細胞の寿命を決める遺伝子が存在します。テロメアは、細胞が分裂するたびに減っていき分裂できなくなって寿命を迎えます。がん細胞は、テロメレースという仕組みを持っていて、テロメアを伸ばします。がん細胞は、テロメアが減らないため、無限に増殖します。

 私たちの遺伝情報は、細胞の核に納められているDNAに全て記載されています。DNAは必要な部分だけ、RNAに写し取られます。RNAの生データは、意味のある遺伝情報に「翻訳」されタンパク質などが作られます。この遺伝子翻訳RNAとは別なタイプのマイクロRNAと呼ばれるものが発見されました。その後マイクロRNAが、さまざまな生命現象に関わっていることが明らかになってきました。マイクロRNAは、特定の遺伝子の読み取りを制御したり、RNAの働きを抑えたりして、遺伝情報の発現に微妙な調整を加えていたのです。

 そこで、がん治療にマイクロRNAが使えるのではないかと研究が進められてきました。がんの転移を抑制したり、抗がん剤の効果を高めたりするマイクロRNAが探索されてきました。三浦典正准教授(鳥取大学医学部病態解析医学講座薬物治療学分野)は、がん細胞に無限の分裂する能力を生み出すテロメレースに影響を与えるRNAと挙動を共にするマイクロRNAを10個見つけました。

 その中のひとつ、miR-520dと呼ばれるマイクロRNAを悪性度の高い未分化がんに導入すると、テロメラーゼを抑えてがん細胞が悪性度を失い、正常細胞にもどることを発見しました。

 iPSなどの多能性幹細胞は、細胞をいったん先祖返りさせて無限の命を授け、そこから必要な細胞を作り出す技術です。マイクロRNAのがん治療は、本来細胞が持つ寿命を「再教育」する技術です。医療の世界が、細胞の寿命をコントロールして利用するという新時代に突入したことを意味しています。(秋葉原駅クリニック院長 大和田潔/SANKEI EXPRESS

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