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本当の意味でのクールジャパン discord

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本当の意味でのクールジャパン discord

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ヨウジヤマモト青山本店の店舗入り口正面にディスプレイされたディスコードの品々(写真奥)。シンプルだが、存在感を放つ=2014年5月27日、東京都港区(寺河内美奈撮影)  【Fashion Addict】

 ≪デザインに表れる「おもてなし」の心≫

 ファッションデザイナー、山本耀司(ようじ)が今年、新たな挑戦に出た。女性向けアクセサリーのブランド「discord(ディスコード)」を立ち上げ、伝統的なものづくりの技を取り入れ、真にクール(かっこいい)な日本の文化を発信していくという。アニメなどのポップカルチャーが先行する「クールジャパン」の分野に、ファッション界から一石を投じた。

 「今の『ジャパンクール』は、アニメやキャラクターだけが大事にされている。僕にとっては残念な状況」

 先月(5月)12日、伊勢丹新宿店(東京)で行われた「ディスコード」の記者発表会。山本耀司は、ジャパンクール、すなわち国を挙げての文化発信活動である「クールジャパン」の旗手がファッションとは別ジャンルという現状を嘆いた。

 そんな山本が、メード・イン・ジャパンにこだわった新たなアクセサリーブランド「ディスコード」を立ち上げた。ブランド名は日本語に訳すと「不協和音」だ。

 崩れやゆがみに見いだす美

 「日本には本当の意味で『クール』なものが多い。わびさびや間(ま)、崩れやゆがみなどに美しさを発見できるのは、日本だけの感覚。高いレベルでのクリエーティブな感覚が、世界に勝てるものなのです」と山本。

 ディスコードのバッグやスカーフ、シューズは、まさにその言葉を体現する。

 バッグやスカーフに施された柄は「花」や「スモーク(けむり)」など。花は咲いてもやがて散り、けむりは絶えず形を変え、霧散する。ともにはかなく、無常である。

 日本文学研究者のドナルド・キーン氏は著書「日本人の美意識」(中公文庫)で、日本人に特有の美の概念として「不規則性」や「ほろび易さ」などを挙げた。はかないものが消え入る一瞬。そこに美しさを見いだす感性は、日本人ならではのものかもしれない。

 白や黒のモノトーンが基調の色使いもまた、墨絵のよう。ただ色使いはミニマムでありながら、明暗などの描写は繊細。例えば花をプリントしたバッグは、5枚の版で濃淡異なる灰色を重ね、花びらが重なり合ってできる陰影の美しさを表現してみせた。

 これらの繊細なデザインをかなえるのは、日本に受け継がれた伝統の技だ。例えばハス柄のストールには、京友禅の技が用いられている。花をインクジェットでプリントした上から、金箔や銀箔を手作業でのせ、茎や葉脈、めしべに微妙な陰影をつけた。「繊細な着物の絵柄の数々を手掛けてきた職人ならではの技術がいきています」と企画担当者は語る。

 見た目の重厚感と持ち心地

 また「おもてなし」に代表される、日本人ならではの細やかな心配りが、ディスコードのバッグのデザインには行き届いている。

 例えば、「カクタス スラッシュ トート」の持ち手にあしらわれたのは、皮のホルダーに収められた小さな鏡のチャーム(小さな飾り)。ちょっとした場面で身だしなみを確認できるようにという心配りが形になった。この鏡は、iPod本体裏面の鏡面磨き技術で有名な、新潟・燕三条の研磨職人による仕上げで、ロゴが配された艶やかな鏡面はこの上なく美しい。

 また「バッグのデザインは初めて」という山本は、20~30代前半の女性3、4人のチームを編成し、女性はバッグをどう持つのか、ちょうどいい大きさや持ち手の幅は…というように、用の美を追究。そのため、見た目には重厚感があるのに、持ち心地は軽い。底には、鋲の代わりに「Y」の文字型に金属パーツを配すなど、隅々までこだわり抜かれたデザインだ。

 また日本の伝統的な履き物の下駄に着想を得た「ゲタ トート」は、持ち手が底までくるりと渡され、下駄の歯のように本体を立たせる。ユニークなデザインは「まさに職人泣かせだった」(担当者)が、職人も大いに刺激を受けたのか、試作を4度も重ね、山本側のこだわりに応えたという。

 次につなげるのが自分の役目

 5月の会見で山本は、日本各地で技を継ぐ織物や染め物の職人や零細な工場に思いをめぐらせ「(商品が)消費者の手元に届くと分かれば、跡継ぎも出てくる。(日本のものづくりを)次につなげたい。それが私の役目」とも語った。

 その言葉と「ディスコード」のアイテムからは、日本のモード界を牽引してきた山本の矜恃が伝わってくる。(文:津川綾子/撮影:寺河内美奈/SANKEI EXPRESS

 【ガイド】

 「ディスコード」は、ヨウジヤマモト青山本店(東京)のほか、伊勢丹新宿店、銀座三越、日本橋三越本店で販売中。問い合わせはヨウジヤマモト プレスルーム(電)03・5463・1500

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