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「忘れられる権利」 有名人の削除要請はヤブ蛇?
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国際自動車連盟(FIA)の元会長で英国人弁護士のマックス・モズレー氏(74)が、2008年に英タブロイド紙が掲載した売春婦との私的な乱交パーティー写真などがいまだにネット上で閲覧可能になっているとして、大手検索サイトの米グーグルを提訴し、注目を集めている。英BBC放送などは7月30日、モズレー氏は有名人で、この提訴は欧州で活発化する「忘れられる権利」とは無関係と明言。さらに「忘れられた過去を多くの人に思い出させ、結局、逆効果になるだけ」と批判したからだ。欧米ではネット社会におけるプライバシー保護問題の再考を促す議論に発展しそうだ。
「グーグルはインターネットへの入り口として巨額の利益と多大な影響力を得ており、法の順守はもちろん、自らが法に準ずる正しい規範を示さねばならない」
モズレー氏は提訴に関してこう訴え「裁判所が出す判決を(グーグルが)無視することは許されない」と息巻いた。
英紙ガーディアンやデーリー・テレグラフ(いずれも電子版)によると、モズレー氏は、グーグルが自身の私的写真を閲覧可能にしていることは、英国のデータ保護法に違反しており、個人情報の悪用にあたるとして(7月)29日、日本の最高裁判所に相当する高等法院に提訴した。
モズレー氏はFIAの会長だった08年3月、5人の売春婦と乱交パーティーを楽しんだと英タブロイド紙ニュース・オブ・ザ・ワールド(11年廃刊)に報じられ、現場の写真や動画もネット公開された。モズレー氏は「事実誤認がある」と新聞社側を提訴。6万ポンド(約1000万円)の損害賠償金を勝ち取った。
これに対しグーグル側は「われわれはモズレー氏と協力し、彼が知らせてきた数百のウェブページを削除してきた」と反論し、自社の正当性を主張した。
今回の提訴に先立ち5月、欧州連合(EU)の最高裁判所にあたる欧州司法裁判所はグーグルに対し「忘れられる権利」をEU市民に与えるべきだとの判決を下した。グーグル側は既に約10万件の記事などを削除した。
今回の提訴はこの流れを受けたものだが、欧米メディアは一様に、有名人であるモズレー氏に「忘れられる権利」は適用されないと主張。BBCは「モズレー氏は“ストライサンド効果”の最重要例」と指摘した。
これは、米女優兼歌手バーブラ・ストライサンドさん(72)が03年、米マリブの自宅が写るネット画像の公開差し止めを求め提訴したことで、逆に世間の関心を集める結果になったという皮肉な事例を指す。
さらにBBCは、米歌手ビヨンセさん(32)が昨年(2013年)2月、米プロフットボールNFLの優勝決定戦「スーパーボウル」のハーフタイムショーに出演した際、米ニュースサイトのバズフィードがその模様を彼女の変な顔の写真ばかりを使って報じた一件を紹介した。
ビヨンセさん側は当然ながら「変顔写真」の削除要請をしたが、サイト側は拒否したうえ、逆に抗議の事実を特ダネとして報じ、アクセス数を稼いだのだ。こうした事例からBBCは「モズレー氏やビヨンセさんら多くの有名人はこの効果の犠牲者」で「昔は写真や情報をもみ消すことができたが、ネット時代の今はそうしたことはできない」と警告した。
“ストライサンド効果”については一般人に当てはまる場合もあり「忘れられる権利」の行使をめぐる議論を活性化させそうだが、広報専門家のマーク・ボウコウスキー氏はBBCの取材に「現代の有名人は、ツイッターの“荒らし”やネット上でお笑いネタにされることに厚顔である必要がある」と助言している。(SANKEI EXPRESS)