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社会
児童虐待 23年連続増7万件超す
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5月末に斎藤理玖ちゃん=死亡当時(5)=の白骨遺体が発見されたアパートの部屋の前に備えられた花やお菓子。2008年春には小学校にも入学しなかったのに発見できなかった児童相談所などの対応が問題となった=2014年6月23日、神奈川県厚木市(岩崎雅子撮影) 全国の児童相談所が2013年度に対応した児童虐待の件数は、前年度比10.6%増の7万3765件(速報値)で過去最多を更新したことが8月4日、厚生労働省のまとめで分かった。1990年度の集計開始以来、23年連続の増加で、初めて7万件を突破した。
厚労省は、昨年(2013年)8月の通知で虐待通告があった子の兄弟も確認するようにしたことや、母親へのドメスティックバイオレンス(DV)に関連し、警察からの通告が増えているのが要因とみている。児童虐待防止法は家庭内のDVを見て子供が心に傷を負うことも虐待と定義している。
全国にある計207児童相談所が、相談や通告を受けて対応した件数を集計した。都道府県別(政令市なども含む)で最多は大阪の1万716件で、神奈川9803件、東京5414件、千葉5374件と続いた。
前年度からの増加率でみると、鹿児島(2.43倍、231件)、鳥取(1.50倍、155件)、愛媛(1.49倍、565件)などが高かった。
虐待から子供を守るため親権を最長2年停止できる親権停止制度に基づき、児童相談所長が家庭裁判所に親権停止を申し立てた事案は16自治体で23件あった。制度が創設された前年度より4件少なかった。23件のうち保全処分も含めて親権停止が認められたのは15件。他は取り下げが5件、審理中が3件。
認められた事例では、白血病の子供の輸血を両親が拒んだり、施設で暮らす子供の腎機能が悪化し腎臓移植に向けた登録をしたのに、保護者が取り消す手続きをしたりといった医療ネグレクト(放棄)のほか、父親や同居男性から性的被害を受けたケースなどがあった。
≪児相職員「子供のためにもっと…」 立ちはだかる現実≫
児童相談所が2013年度に対応した児童虐待件数が7万件を超えたことが8月4日判明。今年5月に発覚した神奈川県厚木市の男児放置死事件をきっかけに、置き去りや所在不明児の問題も浮かぶ。「一人も埋もれさせない」。子供の命を守る最前線で児童福祉司ら職員は奔走しているが、年々増え続ける件数に悲鳴が上がる。「子供のためにもっとしてあげたいが、できない現実がある」。葛藤を抱えながら、子供たちと向き合う児童相談所職員の一日に同行した。
午前9時半、神奈川県内の児相職員が団地の一室に向かった。20代の母親と2人暮らしの女児(4)は2年前、体から異臭を発していたのを不審に感じた保育園から児相に通告された。母親にはわずかなアルバイト収入しかなく、光熱費も払えなかった。児相は育児放棄として女児を約2カ月間、一時保護していた。
部屋への記者の同行は許されなかったが、職員によると、この日も部屋に入ると悪臭が鼻を突き、服が入ったポリ袋が散らばっていた。約50分間、職員は冷蔵庫に食べ物があるかを確認し、生活状況の相談に乗った。児相の支援で生活保護を受け「ごみ屋敷」は少しずつ改善。母親は精神障害が疑われ、障害者手帳がもらえれば掃除を公費負担でヘルパーに頼めるため、生活環境がもっと良くなるはずだが、母親は医師の診断を受けることを拒否している。職員は、子供のためにもっとしてあげたいが、できない現実を前に「葛藤している」とつぶやいた。
午後1時前、事務所に戻ると電話が鳴った。「自宅で親の暴力を受けた生徒が助けを求めている」。連絡してきた高校に職員2人と向かった。
高校で車に乗り込んできたのは女子生徒(16)だった。親類宅に泊まったことをとがめられ「殺してやる。産まなきゃよかった」と母親に怒鳴られ、「やめて」と叫んでも蹴られ続けたと、児相に向かう約25分間、険しい顔で説明した。
「あなたがお母さんになったとき、同じような虐待を子供に繰り返さないように、助けたい」。職員がこう語りかけると、女子生徒は親からの報復を恐れて拒んでいた一時保護所への入所を承諾。「学校の先生になりたくて一生懸命勉強している」と話した女子生徒は、制服のまま一時保護所へ向かった。
この児相では2010年度まで300件前後で推移した年間の虐待相談が12年度以降は500件に迫っているが、虐待相談に対応する人員は10年度から増えていない。ある職員は「緊急事案を優先し、他に手が回らなくなるときもあるが、厳しい現実に直面する子を一人も埋もれさせられない」と決意を口にした。(SANKEI EXPRESS)
≪1件ごとの安否確認必要≫