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落語と出会うきっかけ作りを 映画「もういちど」 林家たい平さんインタビュー
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「演じる人の気持ちに寄り添えば絶対にせりふは出てくる。せりふではなくて、演じる人の心から出た言葉を話すことが大事」と語る、落語家の林家たい平(はやしや・たいへい)さん=2014年6月20日、東京都港区(栗橋隆悦撮影) 一人でも多くの人々に大好きな落語の魅力を伝えようと、人気落語家の林家たい平(はやしや・たいへい、49)は数年前、古典落語の演目「芝浜」を現代風にアレンジした歌「芝浜ゆらゆら」をリリースした。落語だけで勝負しても面白さが世間に浸透しきれない-とすれば、歌の力を借りてでも浸透させていこうという魂胆だ。「『この歌はいい歌だねえ。歌手は林家たい平? 誰? 落語家? 落語って何? では林家たい平の話でも聞きに行ってみようよ』。こうなればしめたものですよね」
今回、たい平が企画、主演、落語監修を務めた時代劇映画「もういちど」(板屋宏幸監督兼脚本)もそんな考えの延長線上にある。「僕が持てるすべてを駆使して、皆さんに落語と素晴らしい出会いをしてもらう。そんなきっかけ作りをずっとしていきたい。僕自身は大学3年生のとき、偶然ラジオから流れてきた落語に出会いました。それ以来、何度も『落語がこんなにも人生を豊かにしてくれるなんて』と思えたんですよ」。作風も落語入門といった趣で、主人公が落語を分かりやすく解説する場面が多々あり、トリビアも満載の仕上がりに、落語ファンならずとも思わず身を乗り出してしまうに違いない。
江戸の長屋を舞台にした本作は、たくさんの古典落語の噺(はなし)を取り入れた人情物語。わけあって噺家修業を断念したたい平(たい平)は放浪の末、江戸・深川の長屋に流れ着く。ある日、たい平は隣に住む夫婦(富田靖子、ゴリ)から「元気のない息子に落語を教えてほしい」と懇願され、人助けと思って引き受けることにした。少年の名は貞吉(福崎那由他)。奉公先でいじめられ、すっかり心を閉ざしてしまったという。貞吉は落語の稽古に打ち込むうちに笑顔を取り戻していく。日に日に腕を上げていく貞吉を目の当たりにしたたい平もどこか気持ちに変化が芽生える。
板屋監督は浜田省吾(61)、ユニコーン、ポルノグラフィティらのミュージックビデオを手がけてきた人物で、本作の主題歌「君に捧げるlove song」は浜田が2003年にリリースしたシングルでもある。落語とは親和性が低くも見えるアーティストたちとのコラボレーションに違和感を抱く落語ファンも多いだろう。たい平もその一人で、最初の企画会議で板屋監督に初めて出会ったとき、その発言内容に神経をとがらせていたそうだ。
「板屋監督は時代の最先端におられる方とお見受けしました。落語は伝統的で保守的な世界にあるものだから、板屋監督との出会いが“黒船来襲”のように思えましてね。僕らが築いてきたものを壊されてしまうのではないかと警戒していたんです」
だが杞憂(きゆう)だった。板屋監督はたい平の著作や落語の解説本をボロボロになるまで読みあさったそうだ。そもそも落語好きだったのだ。本作への姿勢も「子役だからと容赦したり妥協したりせずに本物の落語を身につけさせよう」という厳しいものだった。落語家ではない人だからこそ見えてくる落語のよさをどう撮るのだろう-。たい平は板屋監督に強い関心を抱き、全面協力を決意したという。
演技という表現行為には、落語では味わえない面白さがあることに気づき、新鮮な気持ちになったという。「落語は1人でやるものですから、すべて自分にとって心地よい『間』で表現できます。一方、お芝居の場合は他の人との響き合いが大事になってきます。相手にも間があるから、自分だけでは進めない。
しかし、相手と自分の間がうまく共鳴したときには、全く違う音色が聞こえてくる。それは落語にはない楽しさでした。『この女優さんと共鳴するとこういう音がするんだ』と感心しながら演技を続けました」。映画という未知の世界に思い切って飛び込んだのは正解だったと感じている。
本作では現代に負けず劣らず世知辛い世の中が描かれているが、今も昔も市井の人はどんな生きる知恵を身につけたらいいのだろう。たい平の考えは明確だ。「人は1人では生きられません。映画作りと一緒です。人とぶつかって傷つくことを怖がってはだめ。いろんな人とのつながりの中で、たくさんの思いを胸の中に吸収していく。それが生きていく上での原動力になると思いますね」。8月23日、全国のイオンシネマで公開。(文:高橋天地(たかくに)/撮影:栗橋隆悦/SANKEI EXPRESS)
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