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職務忘れた地方議員の監視を 渡辺武達

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職務忘れた地方議員の監視を 渡辺武達

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政務活動費の不適切使用問題で揺れる兵庫県議会=2014年9月22日、兵庫県神戸市中央区(頼光和弘撮影)  【メディアと社会】

 元兵庫県議の号泣記者会見で露見した政務活動費の不明朗使用問題はその後も、同種の詐欺まがいの事例が出るわ出るわ! 地方議会でのセクハラ発言も、少子化対策で「穴開きコンドームの配布」を提案していた市議がいたことまで発覚した。知性のまったく感じられない恥ずべき言動以外のなにものでもない。

 実態と理想との乖離

 そうした中で、9月19日に東京都の渋谷区議会の議会運営委員会が、本会議での議案に対し賛否意見を述べる「討論」時間を、議員1人当たり年間20分以内に制限することを決めた。新聞やテレビはこれについて、少数会派や無所属議員の反発や識者の意見を紹介するなど、否定的に報じた。

 この決定が単なる派閥や会派に所属しない議員の発言を封じるためのものであれば、もちろん自由な言論の封殺である。一方で、現在の地方議会の実態と、あるべき議会との間の乖離(かいり)について、きちんと掘り下げて考えなければ、議論が形式的になり、健全な社会発展が阻害されかねない。

 今この原稿を東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県大槌町で書いている。ここの役場でも震災以後、もともとの職員の数を超える臨時職員や他自治体、中央官庁からの応援職員がともに働いており、過労も一因となって、職員の自殺のほか、公金の取り扱いをめぐる不祥事も起きている。

 町会議員らも、震災復興資金の投入で、町予算が震災前の10倍にも膨らむなか、これまでに経験したことのない政策モデルの構築や政策の執行に、ついていけないといった戸惑いがある。

 大槌町の場合、当時の町長と役場の職員のおよそ半数、町民の1割近くが津波で帰らぬ人となった。二度と同じ悲しみを繰り返してはならないと、碇川豊(いかりがわ・ゆたか)町長が自著の題名でもある『希望の大槌 逆境から発想する町』の実現を目指し奮闘している。筆者もソフト面からの協力を委嘱され「大槌町情報発信のあり方研究会」委員として、9月29日の第1回会合に出席した。

 被災地ではてんてこ舞いで、現地だけでは対応が難しい問題が山積で、中央政府の杓子(しゃくし)定規な法解釈と適用では解決困難な状況が各方面にある。

 国交省から大槌町に副町長として派遣されている大水敏弘氏の書いた仮設住宅専門書『実証・仮設住宅~東日本大震災の現場から』(学芸出版社)にも、仮設住宅建設一つとっても、国と地方の間で重要な情報の共有がないことが記されている。

 筆者は今回4回目の訪問となる大槌町から山田町、宮古市まで車で移動しながら、インタビュー取材を行った。どこも津波の跡が生々しいが、東京発メディアの報道は、広島の土砂災害、さらには岐阜、長野県境の御嶽山(おんたけさん)の噴火と新たな災害が起こり、東北への注目がさらに薄らいでいるように思える。

 横行する派閥的談合

 筆者の元ゼミ生たちは現在、全国紙、テレビのキー局で働き、地方議会の取材も経験しているが、彼らによれば、大半の地方議会議員の関心は次回の選挙対策と推薦された団体、業界への利益誘導にあり、派閥的談合が横行しているという。今回の渋谷区議での決定も、その延長線上にある。

 どうしてこうも、住民の安全と安心、幸せの実現を手助けするという本来の職務を放棄する議員が多く、しかものうのうとしているのか。有権者には、良質な議員を選び、彼らに本来の職務を遂行させるべく監視する責任がある。

 米国ではネットの影響で、地方新聞の廃刊が相次ぎ、その結果、地方議会と自治体で汚職が増えているという報告もある。住民の目線で行政を監視し、読者や視聴者の目となり耳となって報道するという、メディアの役割がますます大きくなっていることは言うまでもない。(同志社大学社会学部教授 渡辺武達(わたなべ・たけさと)/SANKEI EXPRESS

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