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アサド政権転覆なら中東は混乱 露の警告
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過激派「イスラム国」の主なデータ=2014年9月27日現在、※米CIA(米中央情報局)などによる
米軍が9月22日に、シリア領内のイスラーム教スンニー派過激組織「イスラーム国」の占拠する地域に対して空爆を開始した。ロシアは米国の軍事行動に対して、極めて批判的だ。それは、米国がこの機会を利用して「イスラーム国」のみならずシリアのアサド政権の打倒を目指しているのではないかという疑いをロシアが持っているからだ。露国営ラジオ「ロシアの声」は30日、こう報じた。
<中東研究所のエヴゲーニー・サタノフスキー所長は、テロ対策と並行して、米国は長年計画していたアサド政権の転覆を実現させる意向であると思われると指摘し、次のように語っている。
「米国は、アサド大統領の打倒、シリアにおける政権交代という考えを放棄しなかった。問題は、『イスラム国』に対する地上作戦と、アサド軍に対する攻撃を区別するのは不可能だということだ。現米大統領が、いつどのような指示を出すのか分かる人は誰もいない。」
戦略評価・分析研究所のセルゲイ・デミデンコ専門家は、もし米国がテロ対策と並行してシリアの政権を変えようとすれば、米国が主導する西側諸国は、現在の問題はほんの序の口にすぎないほどの大きな困難に直面するだろうとの考えを表し、次のように語っている。
「もし米国がアサド政権を転覆させた場合、はじめは米国が創設しておきながら、今は英雄的に戦っている『イスラム国』のようなものが、3~4倍に増えるだろう。なぜなら、バシャール・アサド大統領は、イスラム過激派の拡大を阻止する、非常に重要な地域の力の一つだからだ。アサド政権、イラン、イラクのシーア派、クルド人は、いま『イスラム国』と最も積極的に戦い、最も大きな損失を被っている。シリアは、民族・宗教的な面でイラクよりも難しい。もし米国がアサド政権の転覆に成功した場合、米国はイスラエルから永遠に許してもらえないような混乱が始まるだろう。」>
「ロシアの声」は国営放送なので、政府の見解に反する内容の論評は報じない。ロシアは、米国がアサド政権を武力で解体する可能性があると本気で懸念しているのだ。そして、その結果として生じる大混乱で、イスラエルが被害を受けるという見方を示す。イスラエルとアサド政権の間には、現在よりも緊張を激化させないという暗黙の合意が存在している。アサド政権が崩壊すると、シリア全体が極度の混乱に陥る可能性も排除されない。その意味で「ロシアの声」の論評はポイントをついている。
さらにこの論評は、米国の軍事介入が長期化するという見方を示している。<米政府はまだ、「イスラム国」に対する地上作戦の開始計画を正式には発表していない。しかしオバマ大統領は最近、テロ組織「イスラム国」の脅威は過小評価され、イラク軍の能力は過大評価されていたことを認めた。そのため、イラクとシリアにおける作戦は、当初発表された数か月ではなく、少なくとも3年間は続く。>
米国が地上戦に踏み切らない場合、今回、有志連合で参加したサウジアラビア、アラブ首長国連合、カタール、ヨルダン、バーレーンの5カ国の陸軍から精鋭部隊を編成する。そして、この精鋭部隊を米国の軍事顧問団が鍛え上げ、「イスラーム国」掃討作戦に従事させることになる。しかし、このような態勢で3年をかけても「イスラーム国」を掃討することはできない。その過程で、米国は、不倶戴天の敵であるイランと一定の関係正常化を行い、イラクやシリアにおける「イスラーム国」を掃討することは不可能だ。「イスラーム国」の台頭によって、中東の勢力圏図が大きく変化することになるだろう。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS)