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「家庭に気遣いを」神は求める/離婚・中絶 タブーへの対応、法王問う
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バチカン市国 「家庭」のあり方が多様化する中、ローマ法王フランシスコ(77)が、カトリック教会がタブーとしてきた離婚や中絶などへの対応に真正面から取り組むことを表明した。教義と信者の生活実態の溝への対処は教会の大きな課題。5日には世界各地の教会の代表者らを集めた会議が開幕し、法王はミサで「(会議は)神のブドウ畑をより良く管理し、手入れをするためのものだ。神は私たちに家庭を気遣うよう求めている」と強力なメッセージを発した。会議での議論を法王は取り組みの一歩としたい考えでおり、どのような方向性が示されるか注目される。
カトリックの総本山バチカンでは5日、「世界代表司教会議(シノドス)」の臨時総会が19日までの日程で始まった。提起された問題を討議して法王に意見を具申するシノドスは昨春に就任した現法王の下で初開催となる。数年ごとの通常総会とは別に約30年ぶりの臨時総会として招集され、世界の高位聖職者約200人と、専門家や信者夫婦らが参加した。
カトリックは同性婚や人工中絶、特殊事例を除く離婚を禁じる。だが、近年は同性婚や中絶は信者にも広まっており、会議前に世界各地の教会に行ったアンケートでは、現場の聖職者が対応に苦慮している実情が浮かび上がったとされる。
例えば、カトリックの影響が強いイタリアでも近年、離婚が増加。結婚は1995年の年間約29万件から2011年には約20万件に減少した一方、離婚は約2万7000件から約5万4000件に倍増した。
同じカトリック国のフランスでは、教会で行う正式な結婚よりも、役所への書類提出だけで済む「民事連帯契約」と呼ばれる独特の事実婚制度を選択するカップルが増え、1980年には11.4%だった婚外子の出生率が2008年には52.6%に達して過半数を超えた。また、昨年5月には同性婚が合法化されている。
法王は会議で教義と実態の乖離(かいり)について協議したい考え。ただ、同性婚や避妊などの問題については容認の方向には動かないとの見方が大勢で、カトリックの重要儀式の一つ「聖体拝領」を従来は禁じられてきた離婚・再婚者に行う是非が焦点の一つとなるもようだ。同性婚カップルの養子らへの洗礼の可否を議論する可能性もある。
法王自身も禁じられた行為を公式には認めていないが、そうした人々への差別的待遇は問題視してきた。バチカンで先月開かれた結婚式には婚姻前の性交渉はタブーとされるにもかかわらず、結婚前から子供のいる夫婦も招かれ、注目された。
ただ、教義にもかかわる微妙な問題だけに、議論がすんなり進むかは予断を許さない。法王に近い枢機卿が「根本的変化」の必要性を訴えるのに対し、保守派の枢機卿らは従来の規則の重要性を主張。改革派に対して「法王を代弁するようで驚いた」と批判し、会議前から火花を散らした。
議論は今回の会議後も、来年に予定されるシノドスの通常総会まで続くとされ、法王は改革にも幅広い合意を得たい考えといわれる。このため5日のミサでは、マタイによる福音書の「邪悪な牧師は自分では指一本動かすことなく、耐え難い重荷を他人に負わせる」との一文を引き合いに出し、「司教会議は美しく賢い考えを討議したり、誰がより知的かを決めたりするためのものではない」と建設的な議論を呼びかけた。
昨年は就任早々、「グローバリゼーションとは、最も弱い者に最も大きな犠牲を強いる切り捨ての文化だ」と言い切り、世界を驚かせた法王。タブーに切り込むメスさばきやいかに。(SANKEI EXPRESS)