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【クレモンティーヌのパリ便り】自分と向き合う、すてきな大人
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人間としての魅力にあふれるDJユニット「バート&ベーカー」の2人(Arnaud_Compagneさん撮影、提供写真) みなさんお元気ですか?
このところパリはぐっと気温が下がり、厚手のコートが必要なほどです。
今日はみなさんにとてもユニークな音楽友達についてお話ししたいと思います。
彼らの名前は「バート&ベーカー」。2人組のDJユニットです。フレッド・アステアをこよなく愛する2人は山高帽にタキシード姿で、往年のジャズをエレクトロスイングの世界によみがえらせ、パリはもとより、ベルリンやローマ、バルセロナなどヨーロッパ各地で活躍しています。ユニット名はベーカーの母親が大親友だった、1920年代に人気を博したアーティスト、ジョセフィン・ベーカーに敬意を表してつけたそうです。別の友人を介して出会った2人はジャズにめっぽう詳しいうえに、ユーモアあふれる会話が楽しい同世代の友人です。
彼らは2つの顔を持つ新しいタイプのアーティストなんです。ロホン(バート)はシステムエンジニア、セバスチャン(ベーカー)はエッフェル塔近くで開業する内科医です。と言うと、みなさんは「パートタイムDJか!」と思うでしょうが、CDも何枚もリリースしている、イベントでも大人気のれっきとしたプロDJなのですよ。
彼らは自分たちで独自の「音楽と生きる方法」を選びました。商業主義に翻弄されずに好きな音楽とつきあい続けるためには、音楽を「生活の糧」とすることをよしとしなかったのです。仲間を集めてパーティーで音楽を流している間にクラブから声がかかり、クラブで音を聴いたレコード会社のディレクターに「CDを出そう」と誘われ、エンジニア&内科医としての活動を続けることを条件にCDをリリースし、彼らのペースで音楽活動を続けているというわけです。
音楽業界、特にCDの売り上げはここ十数年減り続けています。音楽に限らずヨーロッパ全体の経済は決して良好とは言えない状況の今だからこそ「自力で生きる方法」をシビアに考えることはとても大切だと思います。
日本で出会う「二足のわらじ」といったスタイルで活動する音楽アーティストは、数年前までフランスには存在しませんでした。シンガーはシンガー、会社員は会社員として1つの職業に従事するのが当然で、それ以外は邪道とされていたとも言えるでしょう。整った社会保障はフランスのいいところでもありますが、「自活力」を衰えさせるという面も持っています。仕事がないと嘆いている人に出会うたびにそれを実感します。
そんなに若くもなく、そんなにかっこ良くもないけれど、人間としての魅力にあふれる2人は、パリ15区の大好きなCDとLPと本に囲まれた居心地のいいアパルトマン(集合住宅)で、彼ららしいエレガントな暮らしをおくっています。
人生は出会いと大小の選択の繰り返し。時代や人に流されず「自分」ときちんと向き合って生きていく2人は、一般的な人生ではないかもしれませんが、真剣に生きているすてきな大人です。すてきな大人が増えることが、子供たちに希望を与える唯一の方法だと思いませんか? 人と違う道を恐れずに、自分で選択する勇気を持つことが、豊かな人生を生きることにつながるのだと思うのです。