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言語道断の職業差別 渡辺武達

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言語道断の職業差別 渡辺武達

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東京・汐留の日本テレビ本社=2011年4月10日、東京都港区(原田史郎撮影)  【メディアと社会】

 来年4月に日本テレビにアナウンサーとして入社する内定を受けていた大学4年生の女子学生が、東京・銀座のクラブでアルバイトをしていた経験を理由に内定を取り消されたのは不当だとして日テレを提訴した問題が注目されている。週刊誌のスクープで明らかになり、テレビや一般新聞も後追いで報道。14日に第1回口頭弁論が東京地裁で行われた。

 勝ち目ない日本テレビ

 訴状によると、5月に日テレから送られてきた内定取り消しの通知書には「アナウンサーには高度の清廉性が求められる」「セミナーで提出した自己紹介シートにクラブでのバイト歴を記載しておらず、虚偽の申告だ」などと書かれていたとしている。訴状や報道の通りであれば、法的にも倫理的にも日テレに勝ち目はないだろう。

 しかし、アナウンサーを希望する女子大学生らに与えた衝撃は大きかったようだ。筆者の講義を受講している2年生の女子学生から「自分もホテルのバーでアルバイトをしているので、就活が心配だ」という相談を受けた。

 筆者は、「夜遅くまで酒席でサービスをするアルバイトは勉学には有益ではないこともあり得る」と前置きして、ひとまず次のようなメールを送った。

 「今回の日本テレビの対応は『男女の平等』『職業に貴賎なし』という憲法の精神からいっても無茶苦茶である。理由の第1は、どのような職種のアルバイト経験があってもそれが犯罪的なものに関係していなければ、それを理由に就職拒否をすることは社会的にはもちろん、法律的にも成り立たない。第2、日本テレビだけではなく、そこでアナウンサーやキャスター(アシスタント)として出演している人の中にホステス経験者がすくなからずいるので、外に漏れなければ問題なし…というのが現場の実態で局側の主張は成り立たない。第3、日テレをはじめ、メディア企業の幹部が東京の銀座や大阪の新地のクラブやバーで遊興しているのは間違いないし、筆者も連れていって貰ったことが何回もある。なのに日常的にそうしている者がそこでのアルバイト経験がある女性を自社採用内定を取り消すのは言語道断である」

 筆者は、この30年余りに、NHKとすべての民放キー局の番組制作に関わり、テレビ局の内情をある程度知ることができた。その体験からも、メディア政治学の研究からも、メールに記した3点は自信をもって言える。

 それに憲法第14条には「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」とある。今度の件は「社会的関係」における差別そのものだといえる。

 経団連憲章にも反する

 また日本テレビは内定後の社内研修時の調査でこの女性がそのアルバイト歴を申告しなかったことをもって、「貴殿の行為は重要な経歴の詐称に他ならず、弊社との信頼関係を著しく損なう背信行為」と主張しているというが、それも実態に合わない。

 現在の大学生の大半がアルバイトをし、しかも在学中に複数のアルバイトを経験している。それらのすべてを書かなかったからといって、「経歴詐称」などの罪にはならないし、内定先への背信にもならない。

 さらにいえば、日テレに内定していた女子学生のように、3年生の秋にインターンや就活セミナーを開き、その参加者の中から有望な人材を「内々定」として確保することは、経団連が定めた「採用選考に関する企業の倫理憲章」の現行版「正常な学校教育と学習環境の確保」にも反している。その第3項「採用選考活動早期開始の自粛」には「学生が本分である学業に専念する十分な時間を確保するため、採用選考活動の早期開始を自粛する(中略)。広報活動は卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降、選考活動は卒業・修了年度の8月1日以降」とあるからだ。

 憲法だけではなく、放送法も、社会的な職業差別を是正することをメディアに求めており、電波法によって免許を得て事業展開している公共性の高いテレビ局はそれを順守する責務がある。その意味で今回の対応はあまりにも横柄かつずさんであろう。(同志社大学社会学部教授 渡辺武達(わたなべ・たけさと)/SANKEI EXPRESS

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