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ナチスの略奪絵画 旧所有者への返還に道 独政府協力、スイス美術館受け入れ
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記者会見で合意文書を披露するベルン美術館理事会のクリストフ・ショイブリン会長(左)とドイツのモニカ・グルッタース文化相(中央)ら=2014年11月24日、ドイツ・首都ベルリン(ロイター) スイスのベルン美術館は24日、2012年にドイツ南部ミュンヘンで見つかった第二次世界大戦中のナチス・ドイツによる略奪品を含む大量の絵画の遺贈を受け入れると発表した。5月に死去した絵画の所有者が「全作品をこの美術館に寄贈する」との遺言を残していたことが発覚。美術館側は熟考の末、受け入れを決めた。この判断を受け、これまで略奪絵画の返還に及び腰だったドイツ政府も美術館側と協力し、絵画の正当な持ち主を探すと宣言した。とはいえ、所有者の遺族の一部が絵画の所有権を主張するなど、事は簡単に運びそうにない。
「これは私の職業人生の中で最も困難な決断だった」
ベルン美術館理事会のクリストフ・ショイブリン会長はこの日、ドイツ・ベルリンで行った記者会見でこう述べ、ドイツ当局と協力し、「コレクションに含まれる略奪絵画はすべて正当な持ち主に返還する」と宣言した。会見に同席したドイツのモニカ・グルッタース文化相も「ナチスの犠牲者に報いるため、わが国は略奪絵画の返還に関し、法的・道徳的責任がある」と全面協力の姿勢をみせた。
AP通信や英BBC放送(電子版)などによると、絵画の直近の所有者は今年5月に死去したコーネリウス・グルリット氏。絵画はミュンヘンにある彼の古びたアパートで見つかった。父親はナチス・ドイツを率いたアドルフ・ヒトラー(1889~1945年)の意向を受け、ナチス政権時代に暗躍した有名な美術品ディーラー、ヒルデブランド・グルリット氏だ。
父から譲り受けた絵画を捨て値で売って細々と暮らしていたが、2010年、スイスからドイツへ向かう電車内で抜き打ちの税関検査を受けた際、9500ユーロ(約140万円)もの札束を所持していたことが発覚。不審に思ったドイツ当局が12年、脱税容疑でコーネリウス氏のアパートを家宅捜索し、パブロ・ピカソ(1881~1973年)やマルク・シャガール(1887~1985年)、アンリ・マチス(1869~1954年)ら有名画家の所在不明作品を含む計1280点もの絵画を発見・押収した。全作品の推定価値は1000億円以上とあって、世界的に注目を集めた。
ドイツ当局はその後、略奪絵画の返還に応じたコーネリウス氏に押収した絵画の返還を決めた。コーネリウス氏は5月に心臓病で81歳で死亡。その直後、全作品をベルン美術館に寄贈するとした遺書がみつかった。
今回の決定を受け、美術館とドイツ政府は早速、ユダヤ人絵画収集家、ポール・ローゼンバーグさんの所有だったマチス作品など計3作を略奪絵画と認定。法的所有権を持つ本来の持ち主に返還すると発表した。
ローゼンバーグさん一家を担当するロンドンの弁護士、クリストファー・マリネロ氏も今回の決定を歓迎。フランス通信(AFP)に「コーネリウス氏のような人物は他にもたくさんいる。ナチスの略奪絵画問題はこれが最後ではない」と述べ、この問題のさらなる広がりの可能性を示唆した。
一方、コーネリウス氏のいとこの一人、ベルナーさん(86)らは今月21日、遺言をしたためた際のコーネリウス氏の精神状態には問題があったと主張。絵画の所有権はわれわれ遺族にあるとミュンヘンの裁判所に訴えた。
現在、絵画はすべてベルリンにあり、美術館では略奪絵画を中心に、持ち主が判明するまでは展示しないとしている。(SANKEI EXPRESS)