SankeiBiz for mobile

伝えたい真実を理解してもらえるから 映画「メビウス」 キム・ギドク監督インタビュー

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSのエンタメ

伝えたい真実を理解してもらえるから 映画「メビウス」 キム・ギドク監督インタビュー

更新

次作は政治事件をモチーフにした群像劇「One_On_One」。キム・ギドク監督は「セリフをたくさん盛り込みました」と語った=2014年9月29日、東京都渋谷区(寺河内美奈撮影)  人間の狂気に斬り込み、その本質に映像で肉薄してきた韓国のキム・ギドク監督(53)がまたもや問題作を手がけ、ファンを驚かせた。新作「メビウス」でモチーフとしたのは、思春期を迎えて間もない少年のペニスだ。ペニスなど性行為や排尿の際に使う単なる道具でしかないのではないか-と捉えがちなわれわれの懐疑的な見方を想定してか、キム監督は開口一番、「家族、ひいては人間が存在する意義を考える道具としても、ペニスは極めて大切なものだと思うんですよ」と機先を制し、したり顔で映画化の意義を強調してみせた。

 韓国のとある上流家庭。愛人(イ・ウヌ)との逢瀬にうつつを抜かす夫(チョ・ジェヒョン)に対し、怒りを爆発させた妻(イ・ウヌ、2役)は、寝入っていた夫を襲い、鋭利な刃物でペニスを切り落とそうとするが、激しい抵抗に遭ってあえなく断念。ところが、すぐに攻撃の矛先を自分の息子(ソ・ヨンジュ)に向け、熟睡していた息子のペニスの切断に及んだ。そのまま妻は家を飛び出して行方不明となり、残された息子は排尿や自慰行為すら満足にできない自分に嫌気が差して、すっかり生きる自信を失ってしまう。息子への罪悪感にさいなまれていた父は、ペニスがなくても生きがいが感じられるとっておきの解決策を見つけ出し、息子に伝授するのだが…。

 全てのせりふ排す

 キム監督は全編にわたって役者のせりふを排し、感情表現といえば、せいぜい「笑う」「泣く」「叫ぶ」を見かける程度だ。「お客さんが役者の行動や表情だけでちゃんと物語を理解できるのかを知りたくなりました。冒険してみたかったんですよ。もう一つの理由は、お客さんが自分なりにせりふを考えながら、作品を楽しんでくれたら面白いと思ったからです」。キム監督はこれまでにも「うつせみ」「魚と寝る女」「悪い男」「春夏秋冬そして春」といった一部せりふがない作品を撮ってきた。「せりふが少ない方がかえって映画が伝えたい真実を理解してもらえる場合があります。せりふがあることで、どうしても嘘が混じってしまう気もします。でも、行動だけを見せれば、そこに嘘はありません」。表現者としての実感だ。

 しかし、なぜペニスなのか? 「実際に体と心で感じたこと、この目で見た社会の矛盾、人間の苦しみ」に映画の題材を求めてきたキム監督はこんな説明してみせた。「男である私はふと思ったんです。ペニスは人間の欲望のはけ口としての機能以外にもきっと何か意味があるんだと。つまり、自分の家族と関係づけてくれたり、巨視的に捉えれば、全人類とも結びつけてくれる、大切な『鍵』なのかもしれないとね。すべての人間はペニスを介してどこまでも一つの線でつながっている-というイメージが浮かびました。僕はタイトルのメビウスにそんな意味を込めたんです」

 生々しい描写を再編集

 作中、トラウマを抱えてしまった息子は、自分を小ばかにした不良グループの一人への報復として、ペニスを切り取ってしまい、すぐに自分の下半身に移植しようと病院へ急行する。白昼堂々、韓国の街中で、息子と不良が激しい争奪戦を繰り広げたわけだが、路上に落としてしまったペニスが無残にもトラックに踏みつぶされてしまうシーンは衝撃的だ。最初の編集に対し、日本の映倫にあたる組織からは「ペニスの描写がリアル過ぎる。削除してください」と注文がついたそうで、キム監督は素直に従い、よりマイルドな映像となるように再編集した。「僕が見てもあまりにリアルで、青少年への影響も考慮しました。実は最初に編集したペニスはスタッフの実物をかたどって作ったんです。動くようにも設計されていました。10日もかけずにすべての撮影を終えてしまうほどタイトなスケジュールでしたから、現場ではリアルなペニスの造形物を笑い倒すような雰囲気はこれっぽっちもありませんでしたよ」。12月6日、東京・新宿シネマカリテほかで全国順次公開。(文:高橋天地(たかくに)/撮影:寺河内美奈/SANKEI EXPRESS

 ■Kim Ki-duk(金基徳) 1960年12月20日、韓国生まれ。農業学校を卒業後、兵役、画家を経て、映画の世界へ。2004年「サマリア」でベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)、04年「うつせみ」でベネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)、11年「アリラン」でカンヌ国際映画祭「ある視点」賞、12年「嘆きのピエタ」でベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞。

 ※映画紹介写真にアプリ【かざすンAR】をインストールしたスマホをかざすと、関連する動画を視聴できます(本日の内容は6日間有効です<2014年12月10日まで>)。アプリは「App Store」「Google Playストア」からダウンロードできます(無料)。サポートサイトはhttp://sankei.jp/cl/KazasunAR

ランキング