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W杯組を立て直し 最大の逆転劇演出 ガンバ大阪 長谷川健太監督
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優勝を決めシャーレを掲げるガンバ大阪の長谷川健太監督=2014年12月6日、徳島県鳴門市の鳴門・大塚スポーツパークポカリスエットスタジアム(山田喜貴撮影) Jリーグ史上最大の逆転劇だった。今季J1に復帰したばかりのガンバ大阪が、9年ぶり2度目の優勝を果たした。
チームを率いたのは、昨年のJ2時代に就任した長谷川健太監督(49)。1年でJ2優勝、J1復帰を果たして今季に臨んだが、エースFW宇佐美貴史が故障離脱するなど誤算続きだった。ボランチが本職の主将、遠藤保仁(やすひと)を最前線に置く苦肉の策も実らず、ブラジルW杯を控えて日本代表組の今野泰幸は「心のけが」で絶不調。W杯による中断期間を迎えた際には再びJ2降格圏内の16位に低迷し、首位をひた走る浦和には絶望的ともいえる勝ち点14差をつけられていた。
自身は小学校時代から一貫して攻撃的な選手だったが、W杯期間中に徹底したのは守備の確認だった。細かい位置取りを繰り返し浸透させたチームに、W杯の惨敗で失意の遠藤、今野が合流した。
ともにW杯直前まで、ザッケローニ監督の下でレギュラーとして戦いながら、本番では出場に恵まれなかった。悔しさをどこかにぶつけたい2人を長谷川監督は2ボランチに並べてチームを安定させた。
宇佐美が本格的に復調してゴールを重ね、7月から期限付き移籍で加入したパトリックの強さと速さが敵の脅威となった。
中断明けの5連勝。一休みしての7連勝。リーグ終盤に失速した浦和の背中はぐんぐん近づいた。最終戦の1つ前で得失点差で首位に立ち、そのまま逃げ切った。
遠藤、今野、宇佐美らが失意から立ち上がり、個々の踏ん張りによる優勝だが、これを引き出したのは長谷川監督の手腕である。清水東高時代には大榎克己、堀池巧とともに「三羽がらす」と呼ばれた。
小学校時代の同級生に漫画家のさくらももこがおり、「ちびまるこちゃん」にはサッカー好きの「ケンタ」も登場した。日産、清水で活躍し、米国W杯予選では右のアウトサイドの切り札的存在だった、「ドーハの悲劇組」でもある。
残る天皇杯も獲得すれば、今季3冠で押しも押されもせぬ名将の仲間入りだ。気になるのは日本代表、アギーレ監督の八百長関与問題。急遽(きゅうきょ)差し替えということになれば、長谷川監督も候補となる。
ガンバがおいそれと差し出すつもりはあるまいが。
≪歓喜と失意 別れの最終戦≫
ガンバにとっての大逆転優勝は、そのまま浦和の悲劇でもあった。最大勝ち点差14をひっくり返されたのだから、過激さでなるサポーターもたまらない。
さいたまスタジアムは5万3000人余の大観衆で埋まり、スタンドを真っ赤に染めたサポーターは再逆転優勝を信じて歌い、叫び、鼓舞し続けた。願いは通じず敗戦で今季を終えた選手らには心ない罵声も飛んだ。
ピッチに倒れ込み、膝に手をつき、うなだれたままの選手たち。主将の阿部勇樹が一人一人を起こして歩く。ドーハの悲劇を思いださせる光景だった。
スタジアムの空気を変えたのは、退団する坪井慶介のあいさつだった。ジーコの日本代表でセンターバックを務めた俊足DF。ドイツW杯では初戦のオーストラリア戦で故障退場し、逆転負け。監督を「坪井が万全なら」と悔しがらせた。
チームに「ともに喜び、ともに苦しみ、ともに泣いてくれてありがとう」と感謝し、「強い浦和に魅力がある。それを求めてやってほしい」とエールを送った。
リーグ最終戦。優勝を果たし、逃したクラブがあれば、現役に別れを告げた選手もいる。浦和同様、最終戦に優勝の望みを残した鹿島では、元日本代表DF、中田浩二が引退した。帝京高校から鹿島入りし、トルシエ監督時代には「フラット3」の一翼を担った。セレモニーでは同期入団の小笠原満男、本山雅志の名を挙げて感謝し、「17年間、夢のような世界をありがとうございました」とあいさつした。
中田とともに鹿島の黄金時代を築いた柳沢敦も仙台で引退した。富山一高時代から将来を嘱望され、鹿島でFWとして活躍。イタリアへの移籍を挟み、日韓、ドイツの両W杯で日本代表のエースFWを務めた。
多くの中盤の選手がこれまで「天才」と呼ばれたが、ストライカーでそう呼ばれたのは柳沢だけだったかもしれない。半面、チャンスでもパスを選択するFWとして厳しい評価にさらされたこともある。
雪降る中での引退セレモニーに「雪国育ちの僕らしい。最後の花道を作ってもらい、感謝の気持ちでプレーした。幸せな時間を過ごせました」と語った。何より試合相手の広島の選手らに胴上げで送られたのが、この希有な才能との別れにふさわしかった。(EX編集部/撮影:山田喜貴、中井誠、森田達也、吉沢良太、共同/SANKEI EXPRESS)