SankeiBiz for mobile

【ヤン・ヨンヒの一人映画祭】知性と気品と緊張 官能の扉開ける

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSのエンタメ

【ヤン・ヨンヒの一人映画祭】知性と気品と緊張 官能の扉開ける

更新

【かざすンAR(視聴無料)】映画「毛皮のヴィーナス」(ロマン・ポランスキー監督)。12月20日公開(樂舎提供)。(C)2013_R.P.PRODUCTIONS-MONOLITH_FILMS  □映画「毛皮のヴィーナス」

 「SM映画」である。「私ってS? M?」と何度も自問自答させる作品である。S=サディズムとM=マゾヒズムについて、これほどまでに艶(なまめ)かしくもエレガントに提起してくれる作品があっただろうか。知性と気品と悪戯(いたずら)心に満ちた、ウイット溢(あふ)れる軽やかな大人の作品の登場である。

 「戦場のピアニスト」(2002年)で世界を席巻するなどヒット作を連打するポーランドのロマン・ポランスキー監督、81歳。実生活でも数々のスキャンダルで浮名を流し、自ら「SMは得意分野だ」と豪語する監督は、たった2人だけの俳優と劇場の中という閉ざされた密室を舞台にセンセーショナルな官能の扉を開け放ってくれた。熟練の技を結集して尚(なお)もチャーミングな作品は1秒たりとも退屈しない緊張感に溢れ、その濃密さ故の満足に観客はニヤリと笑いたくなるほどだ。

 冒頭から「これはお芝居だぞー」と言わんばかりの導入シーンにわくわくする。エキゾチックで戯(おど)けたような音楽とともに雷の音が鳴り響く。ヨーロッパの寂れた町に土砂降りの雨が降る。観客は、足のない幽霊に抱えられたようなカメラワークで雨の並木道を通り、「シアター」という看板だけがある古い劇場の扉の中へ誘われる。

 次第に「支配」される展開

 新作舞台の主演女優を探すオーディションを終えたばかりの演出家トマ(マチュー・アマルリック)が携帯電話に不満をぶつけている。「35人も会ったのに馬鹿(ばか)で下品な女優ばかりだ! 知的で妖艶で滑舌もいい女優はいないのか! 僕がストッキングはいて演じたいくらいだよ!」。どうやら好みの女優が見つからず機嫌が悪いらしい。そこへ、ズブ濡(ぬ)れの女ワンダ(エマニュエル・セニエ)が現れる。「随分遅刻しちゃったけど、私はイイ女優よ。名前は役柄と同じ、ワンダ。今日は朝からいろいろあってやっとたどり着いたの、オーディションをしてちょうだい」と厚かましくトマに迫る。トマは、コートを脱ぎながらまくし立てるワンダに呆(あき)れながらも「SM的な衣装」に身を包んだ彼女にくぎ付けになる。

 街角に立つ娼婦(しょうふ)のように下品ではあるが、黒い革のボディースーツからのぞく豊満な胸の谷間、ガーターベルトと黒いストッキングをはいた見事な大人の曲線美に参ってしまう。隙をつくようにトマを説得するワンダ。トマを煽(おだ)て、叱り、泣き落とし、懇願する姿はコメディーのようで笑える。いつの間にかズルズルとワンダに主導権を握られ、トマが相手役を演じながらオーディションが始まる。

 1800年代の古風な衣装に身を包み舞台に立ったワンダは、一瞬にして知性溢れる妖艶な貴婦人に生まれ変わっていた。完璧に覚えたせりふで貴婦人ワンダを演じながらトマに指示を与え始めるワンダ。トマはワンダに従い脚本を書き直し、自分を見失いながら支配される男を演じながらわれを忘れる。そしてラスト、支配されることに疲れたワンダの男社会に対する痛烈な仕返しが待っていた。

 2人の俳優が強烈で頭から離れない。ふと、クローゼットの奥に仕舞い込んだガーターベルトの存在を思いだした。「私はS? M?」。今もエンドレスな自問自答を楽しんでいる。(映画監督 ヤン・ヨンヒ/SANKEI EXPRESS

 ■ヤン・ヨンヒ(梁英姫) 1964年、大阪市生まれ。在日コリアン2世。映画監督。最新作「かぞくのくに」は第62回ベルリン国際映画祭で国際アートシアター連盟賞を受賞。他に監督作「ディア・ピョンヤン」「愛しきソナ」がある。

 【STORY】

 原作はオーストリアの小説家、レオポルド・フォン・ザッヘル=マゾッホ(1836~1895年)の自伝的小説「毛皮を着たヴィーナス」をもとにした戯曲。マゾッホの名前は「マゾヒズム」の語源にもなった。傲慢な演出家のトマはオーディションに遅刻してきた無名の女優、ワンダに押し切られ、渋々彼女の演技を見ることになり…。ロマン・ポランスキー監督。12月20日から東京・Bunkamura ル・シネマほかで全国順次公開。

 ※映画紹介写真にアプリ【かざすンAR】をインストールしたスマホをかざすと、関連する動画を視聴できます(本日の内容は6日間有効です<2014年12月24日まで>)。アプリは「App Store」「Google Playストア」からダウンロードできます(無料)。サポートサイトはhttp://sankei.jp/cl/KazasunAR

ランキング