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経済
日本は1997年度から「格差の時代」 富裕層はますます豊かに
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格差問題を論じ世界的なベストセラーとなった「21世紀の資本論」の著者であるフランス経済学者のトマ・ピケティ氏=2014年6月16日、英国・首都ロンドンのロンドン大経済政治学院(共同)
格差問題を取り上げた仏経済学者のトマ・ピケティの「21世紀の資本」が世界的なベストセラーになっている。そのコアは「資本収益率が産出と所得の成長率を上回るとき、資本主義は自動的に、恣意的で持続不可能な格差を生み出す」(邦訳本=みすず書房刊=の内容紹介から)と断じている点だ。
日本はどうか。さっそくデータを調べてみた。まずは法人企業統計(財務省)の総資本経常利益率を「資本収益率」に、国内総生産(GDP)の実質成長率を「産出と所得の成長率」にみなして、それらの推移を追ってみた。興味深いことに1997年度以降、資本収益率が成長率を一貫して上回っているではないか。
それまではおおむね成長率のほうが収益率を上回ってきた。下回ったときは、石油危機やプラザ合意による急激な円高、90年代前半のバブル崩壊といった「ショック効果」によるもので、その後、成長率は1、2年で元通り収益率を上回る軌道に回帰している。ピケティの定理を前提にするなら、日本経済は97年度以降、「格差の時代」に突入したことになる。
97年度といえば、橋本龍太郎政権が消費税増税と公共投資削減など緊縮財政路線に踏み切り、日本経済は一挙に慢性デフレ局面にはまり込んだ年だ。日本は、いまなおデフレから抜け出られないでいる。経済の実額規模である名目GDPは、2013年度が1997年度に比べて7.3%減、金額で38兆円のマイナス、国民1人当たりでは3万円も減った。
「デフレは企業者の生産制限を導き、労働と企業にとって貧困化を意味する。したがって、雇用にとっては災厄になる」と、かのケインズは喝破したが、格差拡大所得の元になるGDPが縮小してみんな等しく貧しくなるわけではない。
デフレは格差拡大の元凶である。一般に現役世代の賃金水準が下がるのに比べ、預金など金融資産を持っている富裕層はカネの価値が上がるのでますます豊かになる。給付水準が一定の年金生活者は有利だし、勤労者でも給与カットの恐れがない大企業や公務員は恵まれている。
デフレで売上高が下がる中小企業の従業員は賃下げの憂き目にあいやすい。デフレは円高を呼び込むので、生産の空洞化が進み、地方経済は疲弊する。若者の雇用の機会は失われる。
慢性デフレの局面でとられたのが「構造改革」路線である。モデルは米英型「新自由主義」である。97年の金融自由化「ビッグバン」で持ち株会社を解禁した。2001年に発足した小泉純一郎政権は、日銀による量的緩和とゼロ金利政策で円安に誘導して輸出部門を押し上げる一方で、郵政民営化で政治的な求心力を高め、米国からの各種改革要求に応じた。
製造業の派遣労働解禁(04年)など非正規雇用の拡大、会社法(06年)制定など米国型経営への転換が代表例だ。法人税制は1998年度以降、2002年度までに段階的に改正され、持ち株会社やグローバルな企業の事業展開を後押ししている。
小泉政権までの自由化・改革路線は外国の金融資本の対日投資を促す一方で、日本の企業や金融機関の多国籍化を促すという両側面で、日本経済のグローバル標準への純化路線であり、それを通じて大企業や金融主導で日本経済の再生をもくろむ狙いがあった。結果はどうか。
全企業が、従業員給与「100」に対し、どれだけ配当に回しているかを年度ごとにみると、1970年代後半から2001年度までは「3」前後(資本金10億円以上の大企業は「7」台)だった。この比率は02年度からは徐々に上昇し、03年度は「11.5」(大企業「32」)と飛躍的に高まった(