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野党側のアベノミクス対案 見えず

 安倍晋三首相はアベノミクスに対する有権者の評価が分かれている中で、自ら進んでアベノミクスを衆院総選挙の争点に据え、野党に突きつけ、勝負に打って出た。

 「脱デフレ」ビジョン欠如

 1日、東京内幸町の日本記者クラブで開かれた党首討論では、安倍首相の攻勢に対して民主党を初めとする野党が論戦でどこまで巻き返すか、筆者は興味津々で傍聴した。が、拍子抜けだった。ひと口で言えば、野党側はアベノミクスに代わるまとまった日本経済再生案を示せなかった。

 野党第1党民主党の致命的な弱点は、公約など選挙準備不足によるのではない。経済をどう運営するか、という実効性あるビジョンの欠如である。そこで不可欠なのは「脱デフレ」という認識である。安倍首相はアベノミクスによって、企業収益増、賃上げ、消費増の好循環を実現すると強調した。2017年4月までという期限を設けて、経済を安定成長軌道に乗せ、税の自然増収を実現し、それまでは消費税増税なしで財政再建を目指すのを「国家の意思だ」と言い切った。

 海江田万里(かいえだ・ばんり)民主党代表の基本的論点は「アベノミクスの失敗」である。2度にわたる異次元金融緩和がもたらす円安は物価の上昇を招き、所得格差を生み、生活者や中小企業を苦しめていると批判した。

 確かに、アベノミクスがまんべんなく国内にその恩恵が行き渡っているわけではない。しかし、まずは全体として経済のパイを大きくし、企業の収益を増やし、あとは賃上げなどで継続的に分配を増やす方法は、経済理論の面でも国際的に高い評価を受けている。

 民主党政権は超円高・デフレを放置して企業の国際競争力を失わせ、雇用機会を喪失し、家計消費を萎縮させ、税収を減らしてきた。海江田氏は異次元緩和に代わる「柔軟な金融政策」を提起したが、その言葉の響きは白川方明(まさあき)総裁当時の日銀の小出し緩和によるデフレ容認策そのものである。

 菅直人(かん・なおと)、野田佳彦両氏は首相当時、財務官僚にすっかり洗脳されてしまい、「消費税増税すれば景気はむしろよくなる」と信じていた。野田前首相は自公両党を巻き込んで消費税増税法案を通したが、増税の結果は景気の急激な落ち込みだ。すると、海江田民主党はさっさと「再増税の環境にない」と延期に回る始末で、アベノミクスに対抗する気概がまるで感じられない。

 維新の党の江田憲司共同代表は脱デフレによる税収増と思い切った公共事業や公務員給与のカットなどによる歳出削減の必要性を強調した。その維新が今総選挙で「民主党と連携はしないが、自然に棲み分ける」(江田氏)とは、少々聞き苦しい。

 日本共産党の志位(しい)和夫委員長は安倍首相に「1997年度に続いて2度も消費税増税で経済政策を失敗したと素直に認めるべきだ」と安倍首相に迫ったのには、興味が湧いた。筆者は志位氏とは基本的に考え方は違うが、この点に限っては、同感だ。安倍氏は例によってポーカーフェースで「今年1~9月でみれば経済はまだ成長している」といなしたが、内心は少し苦しかっただろう。首相は周りで消費税増税を勧めた財務官僚や財務省ご用学者、エコノミストに不信感を持っているとも聞く。

 建設的な景気回復策議論を

 再増税を2017年4月まで先送りにしても、消費税率8%という巨大な重荷はついて回る。13年初めのアベノミクス開始以来増え続けてきた実質GDPは、今年7~9月期で前年より5.7兆円減った。年2%台の実質経済成長率を維持していれば、16兆円以上増えていたはずなのに逆ブレしてしまったわけだ。このままだと今年度の実質経済成長率はマイナスに舞い戻る。

 グラフを見てもらえばわかるように、過去の自公政権は経済成長率が高くなると有権者の支持を集め、マイナスになると民主党が躍進している。解散・総選挙が来春以降になれば、議席を大きく減らし、政権が不安定になる。景気持ち直しのためには先の金融緩和追加策に加えて第2の矢である財政出動が鍵になる。選挙戦では、脱デフレ策と建設的な景気回復策で各党が競い合うべきだと、党首討論を聞いて強く感じた。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS

日本記者クラブチャンネル http://WWW.jnpc.or.jp/

会見動画「党首討論会」 (会見日:2014年12月1日)

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