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【アメリカを読む】オバマ氏が「1%」に込めたメッセージ
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1月20日、米議会で意気揚々と一般教書演説を始めるバラク・オバマ大統領(手前)。支持率が上向いているオバマ氏は世論を追い風に、このところ強気の姿勢が目立っている。後方は左がジョー・バイデン副大統領、右がジョン・ベイナー下院議長=2015年、米国・首都ワシントン(ロイター) イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」による日本人2人の殺害脅迫への注目から、日本のメディアはバラク・オバマ米大統領(53)が2015年の施政方針を示した一般教書演説のテロ対策の部分を大きく伝えた。産経新聞の見出しも「『イスラム国』壊滅決意」だった。ただ、オバマ氏は1時間の演説で中間層重視の経済政策に最も時間をかけ、野党・共和党との対決姿勢を鮮明にした。
米紙ワシントン・ポストによると、60分の演説のテーマごとの順位は(1)経済(25分6秒)、(2)外交政策(10分11秒)、(3)教育(3分33秒)、(4)気候変動(2分25秒)、(5)国家安全保障(1分38秒)-だった。経済の突出ぶりは明らかだ。
「1%の富裕層が納税を免れ、富をため込むのを許すことで不平等をもたらしている抜け穴を塞ごう。その資金を使えば、より多くの家族が育児にお金を使い、子供を大学に行かせるのを助けることができる」
演説でオバマ氏はこう強調した。富める「1%」を狙い撃ちにしたのは、共和党との「違い」を打ち出す狙いがある。
ホワイトハウスのダン・ファイファー大統領上級顧問(39)はCBSテレビ番組で次のように語った。
「この国では、中間層を重視する経済学と(富裕層が潤うことで、社会全体に波及する)トリクル・ダウン経済学の間で議論し、合意できるところは合意することが必要だ」
共和党は、企業や個人への減税で「小さな政府」を作ることが経済成長への道であると主張する傾向が強い。オバマ政権は共和党に「トリクル・ダウン理論の信奉者」というレッテルを貼ることで、労働者など富裕層以外の「99%」を重視する民主党の正当性を強調したのだ。
11月の中間選挙で下院に続き上院の過半数も与党・民主党が失ったにも関わらず、4割程度に低迷していたオバマ氏の支持率は急上昇している。一般教書演説で大統領拒否権の発動に繰り返し言及して共和党に脅しをかけたのは、世論の後押しがあるという自信ゆえだろう。
1月中旬にワシントン・ポスト紙とABCテレビが実施した世論調査では、オバマ氏の支持率は12月の41%から50%へと上昇。不支持率は54%から44%に下落した。経済状況を「良い」とした回答も最近は上昇傾向にあり、昨年10月の27%が今回は41%へと14ポイント跳ね上がった。景気の順調な回復が支持率にも影響したとみられている。
当然、共和党のジョン・ベイナー下院議長(65)は「税金や政府の規模を大きくしようとするのは、間違った政策だ」とオバマ氏を批判した。そして、一般教書演説で掲げられた政策を「ファンタジーランド(空想の世界)の提案」だとこき下ろした。
もっとも、民主党の票田となっている都市部の共働き世帯を含めた中間層にどのように食い込むかは、16年の大統領選をにらみ、共和党も頭を悩ましているところだ。
3度目の大統領選出馬を検討していると表明したミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事(67)は中間層の日々の暮らしぶりを「悲劇」と表現。「人々は賃金の上昇を望んでいる」と、オバマ氏が主張する最低賃金の引き上げに同調するような発言をした。
オバマ氏の演説が、共和党を巻き込んだ議論の一石となったのは間違いない。
では、上下両院の過半数割れのため実現する見通しが立たない政策をなぜあえて打ち出したのだろうか。次期大統領選をにらんだ布石との指摘がある。
米ニュースサイト「スレート」の政治記者、ジャメル・ブイ氏は一般教書演説でオバマ氏が掲げた政策を、「民主党の草の根の支持者を引き付けるエリザベス・ウォーレン上院議員(65)の足取りをたどることで、民主党のリベラリズムを力強く守ろうとした」と分析する。
ウォール街の金融業界の支持を受けるヒラリー・クリントン前国務長官(67)が大統領になった場合に進めるであろう政策ではなく、ウォール街が体現する「1%」を激しく批判してきたウォーレン氏の路線を選んだというのだ。
共和党のミッチ・マコネル上院院内総務(72)は一般教書演説を「まるで再び大統領選に出るような演説」と評した。2年後の新大統領が歩む道を規定することで、オバマ氏は自らのレガシー(政治的遺産)を残そうとしているのかもしれない。(ワシントン支局 加納宏幸(かのう・ひろゆき)/SANKEI EXPRESS)