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ODA新大綱 非軍事限定で他国軍支援 国益確保 「積極的平和外交」前面に

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ODA新大綱 非軍事限定で他国軍支援 国益確保 「積極的平和外交」前面に

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閣議に臨む(左から)甘利明(あまり・あきら)経済再生相、安倍晋三(しんぞう)首相、石破(いしば)茂地方創生相=2015年2月10日午前、首相官邸(共同)  政府は10日、政府開発援助(ODA)の基本方針を定めた「開発協力大綱」を閣議決定した。1992年に策定されたODA大綱を名称変更し、非軍事分野での開発協力を推進する路線を明確にした。これまで軍事転用が懸念されたため排除してきた他国軍への活動支援を、災害援助などの非軍事目的に限って容認する。また、戦略として「国益の確保に貢献する」という文言を初めて明記した。ODA大綱の見直しは2003年8月以来約11年ぶり。

 新大綱では、他国軍への支援について「非軍事目的の開発協力に軍が関係する場合には、実質的意義に着目して個別具体的に検討する」とし、対象を災害時の救助活動や物資提供などの非軍事分野に限定した。軍事転用の懸念に対しては、旧大綱の原則通り「軍事的用途や国際紛争助長への使用を回避する」とした。

 13年12月に閣議決定した国家安全保障戦略で打ち出したODAの「積極的・戦略的活用」を、新大綱に反映させた。岸田文雄外相(57)は10日の記者会見で「紛争後の復興や災害救助などで軍が重要な役割を果たすようになっている」と述べ、非軍事分野での軍の関与が増えている国際情勢の変化を指摘した。

 旧大綱では、国民総所得(GNI)など国際基準に従って支援先を決めていたが、新大綱では日本が支援対象を独自に判断する裁量をもたせた。GNIが一定基準に達し、支援対象外となった「ODA卒業国」への支援を再開する。

 重点政策では「平和で安全な社会の実現」を掲げ、紛争による不安定な社会を改善するため、難民や避難民支援などの人道支援も積極的に行う。開発途上国への支援が「国益」にも寄与する観点を重視するほか、政府以外の支援の重要性が増していることから、民間部門との連携を強化する。

 ≪国益確保 「積極的平和外交」前面に≫

 政府が10日に閣議決定した開発協力大綱は、安倍晋三首相(60)が掲げる「積極的平和外交」を色濃く反映し、国際情勢の安定に日本がさらに貢献していく姿勢を打ち出した。イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」によるテロへの対抗策として首相が強調する周辺国への人道支援の拡充も新大綱に沿うもので、これまでの民生分野での支援にとどまらない「国益の確保に貢献する」対外援助戦略を鮮明に示している。

 岸田文雄外相は10日の記者会見で「(非軍事分野の支援を)明確化したことは透明性に向けての一つの前進だ。国民に理解されるように運用していく」と述べ、他国軍への非軍事目的の支援に踏み込んだことに伴う軍事転用の懸念払拭に努める考えを強調した。

 個別具体的に検討

 従来のODA大綱は「軍事転用を回避する」との運用基準にとどめていたが、「実質的な意義に着目し、個別具体的に検討する」と踏み込んだからだ。

 旧大綱では軍事転用の回避を重視するあまり、近年は2013年度のODA予算でセネガル軍が管轄する拠点病院に約1億3000万円を拠出した例がある程度だった。

 しかし途上国では災害支援などに軍が関与するケースが少なくないため、これまで「軍の関与」の題目で一律排除されてきた支援の幅が広がることになる。

 人道支援の面でも「切れ目のない平和的構築支援を行う」として、紛争予防から復旧復興までを一括して行う方針だ。中東、アフリカ、アジアなどの紛争地域では軍が関与する非軍事的活動が増え、「日本の貢献がより求められてくる」(外務省幹部)ことが想定される。

 国連での発言力強化

 また、国連常任理事国入りを目指す日本にとって、国際社会の後押しを受けることにつながる開発支援も欠かせない。GNIが一定基準に達した「ODA卒業国」への支援再開も、国連での発言力強化につなげる狙いがある。

 16カ国あるカリブ諸国のうち近年4カ国が卒業国となったが、「カリブ諸国は国連などで結束して行動するケースがある」(外務省幹部)とされる。中国がカリブ諸国などへの接近を強めており、支援の打ち切りはマイナス要因になりかねないとの判断もある。

 政府は、戦後70年の節目を迎えて打ち出した新大綱を、世界の安定と繁栄に寄与する外交ツールとして有効活用していく考えだ。(SANKEI EXPRESS

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