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【佐藤優の地球を斬る】「テロとの戦い」理解せぬ細野氏
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衆院予算委員会で質問に立つ民主党の細野豪志(ごうし)政調会長(左)。右端は安倍晋三(しんぞう)首相=2015年2月4日、国会・衆院第1委員室(酒巻俊介撮影) 民主党の細野豪志(ごうし)政調会長は、テロとの戦いが何であるか、まったくわかっていないようだ。4日の衆議院予算委員会での細野氏の質疑は実に頓珍漢だった。
<イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」が日本人2人を殺害したとみられる事件をめぐり、民主党の細野豪志政調会長は4日の衆院予算委員会で、安倍晋三首相が先月の中東歴訪で表明した人道支援の表現ぶりについて「日本人人質がどうなるか、外務省はケーススタディーをしっかりやったのか」と批判した。
細野氏は、「人質が取られているということは命の危機があるということだ」と述べ、イスラム国と対峙する国々への協力姿勢を打ち出した表明の手法に問題はなかったかをただした。
これに対し、岸田文雄外相は「日本の責任などを総合的に勘案してスピーチを考えた」と回答。細野氏は納得せず「『総合的』という言葉の中に、2人についてどれくらい真剣にケーススタディーをして考えたのか跡が感じられない」と述べ、政府の一連の対応を批判した>(2月4日「産経ニュース)
まず、細野氏は、1月7~9日のフランスにおける連続テロ事件の意味をまったく理解していない。「イスラム国」は、一方的に米国、ヨーロッパ諸国、ロシア、日本などの既存の国際社会の「ゲームのルール」を順守する諸国に対して宣戦を布告したのである。「イスラム国」の目的は、シャリーア(イスラム法)のみが適用される単一のカリフ帝国(イスラム帝国)を建設することだ。この目的を実現するためには、暴力やテロに訴えることも辞さない。日本人の人質を取っていようが、いまいが、いずれかのタイミングで「イスラム国」は日本を攻撃した。歴史の巡り合わせが少し異なれば、民主党の細野豪志政権が成立していたかもしれない。その場合でも、「イスラム国」は日本を標的にしたことは間違いない。
細野氏の、政局しか考えない頓珍漢な質疑に対する安倍首相の回答は立派だ。<首相は「多くの難民を受け入れている国を困窮化させることはISIL(イスラム国)の思うつぼになってしまう」と述べ、人道支援の意義を強調。「その場所(中東)で連帯を表明することは極めて大切だと考えた」とも述べ、理解を求めた>(2月4日「産経ニュース」)
「イスラム国」を解体するには、2つの戦いが必要になる。第1は、空爆によってテロリストを無害化することだ。しかし、テロリストは「人間の盾」を作り、無辜(むこ)の住民を巻き込むことによって、生き残りを図る。空爆、特に無人飛行機による攻撃は、テロリストに大きな打撃を与えるが、同時に無辜の住民に犠牲者を出すことがどうしても避けられなくなる。
そこで重要になるのが、「イスラム国」の周辺地域における人道支援だ。「イスラム国」の支配下で、暴力とテロの恐怖におびえて暮らしたいと考える住民はいない。それでも約800万人といわれる住民が「イスラム国」の領域内に留まっているのは、逃げ出した場合の生命と生活の不安が大きいからだ。日本が人道支援を行い「イスラム国」支配地域の住民が脱出できる環境を整えることが、テロとの戦いにおける重要な意味を持つ。
仮に民主党が政権の座にあったとしても、「イスラム国」問題についての政策は安倍政権とそれほど変わらない。テロリストに配慮して、日本が中東政策で及び腰になる必要はまったくない。「イスラム国」を解体し、テロの恐怖から人類を解放することを日本外交の基点に据えることに細野氏は反対なのだろうか。細野氏の質疑によって、テロとの戦いよりも政争を重視する民主党の本音が可視化されてしまった。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS)