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【佐藤優の地球を斬る】北へのサイバー反撃 イスラエルと連携有効
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北朝鮮の金正恩第1書記の暗殺を題材にしたコメディー映画「ザ・インタビュー」のワンシーン(AP) 米ソニー・ピクチャーズエンタティンメント(SPE、本社・ロサンゼルス)が、いったんは公開中止すると発表した北朝鮮の金正恩第1書記の暗殺を題材にしたコメディー映画「ザ・インタビュー」について、当初予定通り25日に公開した。公開中止はSPEを攻撃したハッカーからのテロ予告を受けてとった措置だが、オバマ米大統領の批判を受け方針を転換した。
本件は米国のプライドを傷つける大きな政治問題になった。19日にFBI(米連邦捜査局)が、SPEへのサイバー攻撃に北朝鮮が関与していると発表した。
<FBIは声明を出し、「北朝鮮政府が関与していると結論づける十分な情報がある」とした。
その根拠として、サイバー攻撃に使われた(1)マルウエア(悪意あるプログラム)は、北朝鮮関係者が以前に開発したものと関連性がある(2)多くのIPアドレス(ネット上の住所)が北朝鮮のもの(3)北朝鮮が昨年3月、韓国の銀行とメディアに仕掛けた攻撃と類似性がある-ことなどを列挙した。
ホワイトハウスでオバマ大統領は「場所と時期、方法を選んで相応の対応をとる」と強調した。ただ、具体的な内容には踏み込まなかった。議会では制裁強化を求める声が強まっている>(12月20日の産経ニュース)
米世論でもテロに屈したSPEの判断は間違えているとの批判が高まり、SPEは23日に当初予定通り公開すると発表した。
今回の事件で、北朝鮮のサイバー能力がかなり高度であることがわかった。中国やロシア、あるいはイランが日本に対するサイバー攻撃を行ってきたと仮定する。その場合、日本も反撃し、相手のコンピューター・システムをクラッシュさせればよい。日本の自衛隊もサイバー戦についてはかなり高い基礎能力を持っている。実践で鍛えれば、その能力は急速に向上する。この点で、サイバー戦の訓練を積んだ友好国との関係を強化することが効果的だ。
イスラエルは小国であるが、高度のサイバー能力を持っており、かつ実戦で活用している。安倍政権になって日本とイスラエルの関係は飛躍的に改善した。イスラエルとのサイバー技術面での協力を政治主導で強化すべきだと思う。
さて、北朝鮮のサイバー攻撃に対する反撃は、実に難しい。北朝鮮社会はコンピューター化されていない。鉄道、発電所、水道などの基礎インフラの制御も、人力と機械で行われている。コンピューターが使われていないのだから、反撃は物理的に不可能だ。
北朝鮮のサイバー部隊は、主に中国のサーバーを踏み台にして攻撃を行っているものとみられる。日本が中国の協力を得て、北朝鮮のサイバー攻撃ネットワークを破壊しても、そもそも小規模なネットワークで、このような攻撃システムを北朝鮮は短期間のうちに再建することができる。
北朝鮮の腹に応える反撃をしなければ、金正恩政権は国際社会で気に入らないことがあると再びサイバー攻撃を仕掛ける。北朝鮮の核開発、弾道ミサイル開発部門はコンピューターなくして活動できない。恐らく、米国は北朝鮮の中枢部であるこの部分にウイルスを仕掛ける工作に着手している。外部から切り離されたスタンド・アローン・システムにウイルスを仕掛けるノウハウもイスラエルはたけている。米国、イスラエルが協力して、近未来に北朝鮮に対して本格的なサイバー反撃を行う予感がする。
日本の対北朝鮮外交も、米朝関係の推移を注意深く観察しながら行う必要がある。今後2、3カ月で、米朝関係が急速に悪化する可能性も排除されない。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS)