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【佐藤優の地球を斬る】日本の名誉と尊厳が問われている
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初公判を終え、ソウル中央地裁を後にする際、加藤達也前ソウル支局長を乗せた車が抗議デモ団に囲まれ、通行を妨害する行為が行われた=2014年11月27日(大西正純撮影) 韓国のソウルで27日、朴槿恵(パク・クネ)大統領に関するコラムをめぐり、名誉毀損(きそん)で在宅起訴された産経新聞の加藤達也前ソウル支局長に対する事実上の初公判が行われた。
<検察側が示した証拠や起訴状の要旨では、加藤達也前支局長がなぜ、朴槿恵大統領の名誉を毀損するに至ったのか、その動機について一切、言及されていない。
刑事裁判で被告を罪に問う場合、検察側は通常、捜査で得た証拠から動機を提示し、犯意の形成過程やどれほどの意思を持って犯行に臨んだかを立証する。
たとえば殺人事件であれば被告と被害者のつきあいや、金銭、愛情などの利害関係、被告が被害者に対して抱いた憎悪の形成過程や強さを捜査したうえで殺害に至った動機を解明、有罪とすべき根拠とする。
しかし初公判でも検察側は、加藤前支局長が朴大統領の名誉を傷つけようとした目的や、名誉を毀損したとされる行為の契機、犯意の強さに関してまったく提示しなかった。
これに関し日韓の法曹関係者は「今回の事件では被害者の朴槿恵大統領に事情を聴いておらず、被告人との関係など動機解明のための捜査がなされていない。検察側の苦境がうかがえる」と指摘した。検察が今後、動機や犯意の強さについてどう立証していくかが注目される>(11月27日、産経ニュース)
この解説に、法的観点からの加藤氏公判の基本的問題点が端的に示されている。
被害者とされる人が被害感情を持っているのか? 被害感情を持っていても犯人を処罰してほしいという意思を持っているのか?
国際基準の人権が保障されている国家における名誉毀損をめぐる刑事裁判で、最低限確認しなければならないことを韓国検察は確認していない。ここに明らかな不作為がある。
さらに公判後、常軌を逸した行動を取る韓国市民もいた。
<産経新聞の加藤達也前ソウル支局長の初公判が行われたソウル中央地裁で27日、朴槿恵大統領を支持する保守系団体のメンバーが法廷の内外で過激な抗議行動を行った。
保守系団体のメンバーらは傍聴席で「加藤達也、韓国国民に謝れ」「加藤を拘束せよ」などと叫び、加藤前支局長を非難するプラカードを掲げるなどして、複数の男性が退廷を命じられた。
また団体メンバーらは、裁判所を出ようとする加藤前支局長の乗った車を取り囲んだ。車の前の地面やボンネットの上に寝そべったりし、約10分間にわたって執拗に走行を妨害した。
車には10個ほどの卵が投げつけられ、「謝罪」を迫る紙がフロントガラスなど車体に貼り付けられた。メンバーらは加藤前支局長を呼び捨てにし、「謝れ」などと叫んで気勢を上げた>(11月27日産経ニュース)
韓国検察の恣意(しい)的な捜査と法廷内外での市民の常軌を逸した行動は、韓国人の集合的無意識のレベルでつながっている。哲学者のヴィットゲンシュタインは、どんなに疑おうとしても疑うことのできない命題を「文法命題」と言った。韓国人にとって「独島」(竹島)が韓国領であることは疑いの余地がない「文法命題」だ。それに加えて、「加藤達也氏が大統領に対する名誉毀損という罪を犯した」ということが「文法命題」になりつつある。
韓国の裁判に対して、加藤氏と産経新聞は万全の態勢で臨むであろうが、この問題が「文法命題」としての色彩を強めると、「途中で道はいくつか分かれていても、上がりはすべて地獄」という双六のような事態になる。
公判で問われているのは、加藤氏、産経新聞にとどまらず、日本国家と日本国民の名誉と尊厳だ。本件がはらんでいる危機に対する政府関係者の認識が甘いように思える。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS)