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【佐藤優の地球を斬る】加藤前ソウル支局長の自由回復願う
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筆者は、産経新聞社の加藤達也前ソウル支局長と往復書簡を交わした。加藤氏は、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領について書いたコラムをめぐって韓国検察に名誉毀損(きそん)で在宅起訴され、韓国からの出国が禁止されている。11月8日付の紙面で紹介した往復書簡を受け、筆者が送った返信の手紙の要旨を紹介したい。
<加藤達也様、心のこもったお返事をどうもありがとうございます。何度も読み返しました。私がもっともショックを受けたのは、≪最後の取り調べとなった10月2日、ソウル中央地検の担当検事は私に大統領府との和解について確認し、私が具体的な動きがないことを伝えると失望していました。検察は、大統領本人はおろか、その周辺に「処罰意思の有無」を確認することもできなかったのです≫というくだりです。被害者とされる人物の「処罰意思の有無」を確認せずに行われる名誉毀損が刑事事件化されるなどということは、国際基準の民主主義国ではありえないことです。まるで独裁王朝における不敬罪裁判のようです。
加藤さん、このような状況に心を痛めている韓国人はたくさんいると思います。今まで、あまり語ったことがないのですが、私と韓国の関係について説明します。私が韓国を初めて訪れたのは、同志社大学神学部1回生、1979年5月のときのことでした。(中略)当時、同志社大学神学部を卒業し、韓国神学大学校大学院に留学していた先輩が「学園浸透スパイ団」事件で逮捕され、光州の教導所に収容されていました。その関係で、同志社の神学生の韓国への渡航について、韓国政府は慎重な姿勢を示していました。
ビザを取りに大阪の韓国総領事館に行くと窓口の女性から「領事の面接があります」と言われました。中年の領事が韓国への渡航目的や、大学で勉強している内容について細かく尋ねました。私が当時の韓国政府に対して批判的だったことを言葉のはしばしから感じたと思います。ビザを拒否されると思ったら、領事は最後に、「どうぞあなたの若い目で韓国をじっくり見てきてください。ただし、共産主義国と対峙(たいじ)している関係で、韓国の政治状況は日本とちょっとだけ違います。そこには注意してください」と言って15日間有効のビザのスタンプが押されたパスポートを戻してくれました。(中略)
(79年の夏休み、韓国に30日間滞在したとき)延世大学で学生運動にコミットしている学生が、「僕たちは朴正煕(チョンヒ)政権に反対しているが、大韓民国に敵対しているわけじゃない。僕たちは韓国を愛している。このことを正確に日本のキリスト教徒に伝えて欲しい」と言われたことも鮮明に記憶に覚えています。
その後、私の関心は中東欧社会主義国におけるキリスト教と国家の関係に移り、韓国から離れてしまいました。自由、民主主義、勇気などの重要な価値を私は韓国人との付き合いを通じて学びました。それだから、現在の韓国が理不尽な仕打ちを加藤さんに対してしていることをとても口惜しく思うのです。(中略)
返信で加藤さんは、≪法的対応を宣言したものの、事態収拾もできない大統領府、そして大統領府に対してものが言えない検察…。今回の在宅起訴は、朴政権の本質の一端をのぞかせたのではないか-》と指摘されました。その通りと思います。加藤さんの自由を回復し、国際基準の自由と民主主義、人権が担保されていることを可視化することが、韓国の国益、日韓関係の改善、東アジアの平和に貢献すると私は確信しています〉
27日に行われる初公判後、裁判所は最低限、加藤氏の韓国からの出国を認めるべきだ。初公判後の韓国側の反応を見た上で、この先、この問題に関心を持つ作家としてどのようなアクションをとればよいか、よく考えてみたい。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS)