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【佐藤優の地球を斬る】独情報機関、ロシア利する活動展開

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【佐藤優の地球を斬る】独情報機関、ロシア利する活動展開

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マレーシア機撃墜の状況=2014年7月17日午後5時15分ごろ、ウクライナ・ドネツク州グラボボ村。※日時は現地時間  ドイツの対外インテリジェンス機関BND(ドイツ連邦情報局)が興味深い情報を流している。

 <ウクライナ東部で7月、マレーシア機が撃墜された事件で、ドイツ誌シュピーゲル(電子版)は19日、ウクライナの親ロシア派がブク地対空ミサイル(SA11)で同機を撃墜したと、ドイツ連邦情報局が結論付けたと報じた。

 事件をめぐっては、親ロシア派による撃墜とするウクライナや欧米諸国と、ウクライナ軍による撃墜の可能性を示すロシアが対立している。

 ドイツ連邦情報局のシンドラー長官は8日、同国連邦議会の委員会で、衛星写真などの分析結果を報告。親ロシア派がウクライナ軍の基地からブクを奪い、7月17日に発射、ミサイルが298人を乗せたマレーシア機のすぐそばで爆発したとしている>(10月20日の「産経ニュース」)

 沈黙守るプーチン氏

 この記事に記されているように「ウクライナ軍による撃墜の可能性を示す」ロシアの軍関係者や記者はいるが、プーチン大統領はマレーシア航空機がウクライナ軍によって撃墜されたことを示唆する発言を一度も行っていない。プーチン氏は、撃墜がウクライナの領空で起きた以上、その責任は第一義的に領空に対する主権が及ぶ国家が負うという国際法の原則を述べているに過ぎない。

 米国と比較してロシアの偵察衛星や通信傍受に関する能力は低い。しかし、ロシアにとって死活的利益がかかっているウクライナ東部においては、ロシアは全力を尽くして衛星による画像情報や盗聴による通信情報を収集し、分析している。マレーシア航空機が撃墜された直後から、それが親露派武装勢力によるものであることをプーチン氏はつかんでいた。しかし、真実を発表してもロシアに益することがないので、プーチン氏は沈黙していた。今回、BNDが、撃墜が親露派武装勢力によって行われたと確認した事態は、国際社会の誰もが想定していたことであり、ロシアに打撃を与えるものではない。

 ウクライナ軍の能力露呈

 むしろ注目されるのは、シンドラー長官が親露派武装勢力がウクライナ軍の基地からSA11(ロシア名9K37「ブーク」)を奪ったという事実を明らかにしたことだ。SA11は、地対空ミサイルと自走発射機によるシステムだ。発射母体が標的に電波を照射し、標的からの反射波をミサイルに搭載されたシーカーで検知することによって標的を追跡するセミアクティブ・レーダー誘導方式の地対空ミサイルである。射程は3~32キロ、高度は2万2000メートルに及ぶ。ヘリコプターや飛行機のみならず、巡航ミサイルを撃墜する能力がある。

 ウクライナ軍が、このような地対空ミサイルを親露派武装勢力に奪取されるような、低水準の能力しか持たないことが、シンドラー長官の発言で露呈してしまった。しかも、ウクライナ政府は、ウクライナ軍が管理するブーク・システムが、親露派武装勢力に流れたことはないと断言し続けていた。シンドラー長官の証言が事実ならば、ウクライナ政府が嘘をついていたことになる。

 親露派武装勢力は、ロシア政府の統制に服しておらず、また、十分な規律も確立していない野戦集団だ。このような危険な集団にブーク・システムを提供したのがロシアでないということをドイツが明らかにしたことは、政治的にプーチン氏を利する効果をもたらす。これによって、マレーシア航空撃墜事件に対する責任をロシアは回避できるようになった。その分、ウクライナの軍備管理に対する不安が国際社会で高まり、窮地に陥る。ドイツは、巧みな手段を用いて、ウクライナ問題についてドイツと国際社会の世論をロシアに有利にする方向でインテリジェンス活動を展開している。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS

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