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韓国大統領名誉毀損初公判 前支局長「誹謗の意図なし」 無罪主張
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ソウル中央地裁に入る加藤達也前ソウル支局長(中央)=2014年11月27日、韓国・首都ソウル(大西正純撮影) 韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領(62)に関するコラムをめぐり、名誉毀損(きそん)で在宅起訴された産経新聞の加藤達也前ソウル支局長(48)に対する事実上の初公判が27日、ソウル中央地裁で開かれた。前支局長の乗った車に卵を投げつけるなどの抗議行動もあり、法廷周辺は一時騒然とした。
加藤前支局長は法廷で、朴大統領への誹謗(ひぼう)の意図はなかったと無罪を主張し、全面的に争う姿勢を示した。意見陳述では「この裁判が、現代的法治国家である韓国において法と証拠に基づき厳正に進行されることを期待する」などと述べた。
終了後、加藤前支局長を乗せた車が裁判所の敷地を出る際、韓国人の男ら約10人に取り囲まれ、車を押されたり卵を投げつけられたりした。加藤前支局長にけがはなかったが、車の所有者である弁護士は監禁、器物損壊、脅迫などの容疑で地元警察に被害届を出した。加藤前支局長も監禁などで近く被害届を出す。
弁護側はまた、裁判所に対し十分な警備態勢を取るよう申し入れる方針だ。
加藤前支局長は8月3日、産経新聞のウェブサイトに朴大統領に関するコラムを掲載。旅客船セウォル号沈没事故当日の4月16日に、朴大統領が元側近の鄭(チョン)ユンフェ氏と会っていたとの噂があることなどを取り上げた。これに対しソウル中央地検は10月8日、朴大統領を誹謗する目的で虚偽事実を広めたとして、加藤前支局長を情報通信網法における名誉毀損(最高刑は懲役7年)で在宅起訴した。
検察側は27日の法廷で、起訴事実の要旨を述べた後、鄭ユンフェ氏と、鄭氏が事故当日に会っていたと主張する占い師の李(イ)サンオク氏ら6人を証人申請し、裁判所に認められた。弁護側は、加藤前支局長が引用した大手紙、朝鮮日報のコラムを書いた崔普植(チェ・ボシク)記者を証人申請し、認められた。
弁護側はまた、名誉毀損の「被害者」である朴大統領に、加藤前支局長を処罰する意思があるのかないのかについて確認するための捜査が一切行われていないと、検察当局を批判。今後の公判で、処罰意思の有無を朴大統領に確認しなければならないと主張した。
さらに、大惨事の当日、国政の最高責任者がどこで何をしていたかは重要な関心事であり、それについての疑問を提起したコラムは公益性があると強調した。
次回は12月15日午後2時から行われる。(ソウル 藤本欣也/SANKEI EXPRESS)
≪動機なき起訴 検察側の苦境示す≫
27日の初公判で検察側が示した証拠や起訴状の要旨では、加藤前支局長がなぜ、朴槿恵(パク・クネ)大統領の名誉を毀損するに至ったのか、その動機について一切、言及されていない。
刑事裁判で被告を罪に問う場合、検察側は通常、捜査で得た証拠から動機を提示し、犯意の形成過程やどれほどの意思を持って犯行に臨んだかを立証する。
たとえば殺人事件であれば被告と被害者のつきあいや、金銭、愛情などの利害関係、被告が被害者に対して抱いた憎悪の形成過程や強さを捜査したうえで殺害に至った動機を解明、有罪とすべき根拠とする。
しかし、初公判でも検察側は、加藤前支局長が朴大統領の名誉を傷つけようとした目的や、名誉を毀損したとされる行為の契機、犯意の強さに関して全く提示しなかった。
これに関し日韓の法曹関係者は「今回の事件では被害者の朴大統領に事情を聴いておらず、被告人との関係など動機解明のための捜査がなされていない。検察側の苦境がうかがえる」と指摘した。検察が今後、動機や犯意の強さについてどう立証していくかが注目される。(ソウル支局/SANKEI EXPRESS)
≪加藤前支局長の意見陳述全文≫
私は2010年11月のソウル赴任からこれまで、韓国の政治や経済、社会の様子を日本の読者に伝えることが使命、役割という考えのもと、外国特派員として忠実に任務を果たしてまいりました。2004年の語学留学以来、韓国には多くの友人もおり、韓国という国、そして国民に対し、深い愛情を持ってきました。
起訴の対象となったコラムについても、セウォル号沈没事故に関連して韓国国民の間に存在する朴槿恵大統領への認識、そして現象を、韓国の政治や社会の状況としてありのままに日本の読者に伝えようとしたものであります。朴槿恵大統領個人を誹謗(ひぼう)する意図は全くありません。
検察の取り調べに対しても、その趣旨を、長時間にわたり誠実に説明し、真実の解明に協力する態度で臨んできました。この裁判が、現代的法治国家である韓国において、法と証拠に基づいて厳正に進行されることを期待し、誠実に裁判に臨みたいと思います。(ソウル 名村隆寛/SANKEI EXPRESS)