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【佐藤優の地球を斬る】対イスラム国「昨日の敵が今日の見方」
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イスラム国への反転攻勢を考えているというシリアのバッシャール・アサド大統領(中央)。米欧にとって、「昨日の敵が今日の味方」になる可能性もある=2015年1月1日、シリア・首都ダマスカス(ロイター) シリアのアサド大統領が、シリアとイラクの一部地域を実効支配しているイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」に対する反転攻勢を考えているようだ。15日の露国営ラジオ「ロシアの声」が興味深い情報を伝えた。
<シリアのアサド大統領は、ロシアで1月26~29日に予定されている、シリア政府とシリア反政府勢力の代表者たちによる交渉が、対話のための基礎を築くことに期待している。アサド大統領が、1月15日付けのチェコ紙「Literarni noviny」(※引用者注記「文学新聞」)に掲載されたインタビューで述べた。
アサド大統領は、ロシアの立場はテロに対するシリアの戦いを支持すると同時に、政治的解決の可能性を与えていると考えている。
大統領は、「我々の立場は同じような性格を有している。なぜなら私たちは、何らかの政治的チャンスを逃したくはないからだ」と述べた。
これより先、シリア政府は、何らかの外部からの干渉なしに、シリア人が自ら会議を開くことについて合意するために、ロシアで開かれる予備交渉に参加する用意があることを確認した>
フランスのパリで7日に発生した2件のテロ事件に関しては、「イスラム国」が関与した可能性が濃厚だ。11日のフランス全土でのデモ行進の参加者は、AFP通信によると370万人を超えた。パリが120万人以上、リヨンは30万人、ボルドーで14万人など100近い都市の参加者を集計した人数という。今回の行進は、第2次世界大戦でのパリ解放(1944年)以来の規模であるという。
このような状況をシリアは冷静に観察し、「国内でいかに残虐で非民主的な統治をしていようとも、イスラム革命を世界的規模で実現しようとして欧米でテロを展開する『イスラム国』よりは、シリアのアサド政権の方がまだましだ」という国際世論が醸成される可能性があると判断している。このようなアサド政権の姿勢をロシアが後押ししている。
シリアを含むアラブ諸国には、19世紀のカフカス(英語名コーカサス)戦争で敗れたときに、ロシアの支配を潔しとせずに当時のオスマン帝国領に亡命したチェチェン人、チェルケス人などの北カフカス系住民が100万人以上いる。この人たちは現在もロシアの親族と良好な関係を維持している。中東に在住するチェチェン人には、アルカーイダや「イスラム国」の影響を受けた過激派もいる。このような過激派は、北カフカスに第2の「イスラム国」を建設する目的でロシアへの潜入を試みている。「イスラム国」がロシアの国家統合を揺るがす危険性があることをプーチン政権は冷徹に認識している。それだから、シリアではアサド政権に対する政治面のみならず、軍事、インテリジェンスの面でも協力を強化している。
「イスラム国」は、イランの国教であるイスラム教シーア派12イマーム派を殲滅(せんめつ)の対象としている。従って、イランもアサド政権に対するてこ入れを強めて、「イスラム国」の弱体化を図っている。
アサド政権を強化することが自国の利益に合致するとロシアもイランも考えている。「イスラム国」は思ったよりも手ごわい。しかし、現状で、欧米とロシア、イランが手を握るならば、インテリジェンス工作と軍事力によって「イスラム国」を解体することは可能と思う。過去の経緯があるので、米国やフランスは、表だってロシアやイランと協力することはできないが、「敵の敵は味方である」という論理で、実質的にシリアのアサド政権の存続を保証し、「イスラム国」を解体するために利用する可能性は十分ある。「昨日の敵が今日の味方になる」という可能性を常に考慮に入れて、情勢分析をする必要がある。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS)