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【佐藤優の地球を斬る】ルーブル下落契機に「自給自足」目指すロシア

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【佐藤優の地球を斬る】ルーブル下落契機に「自給自足」目指すロシア

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“盟友”関係にあるロシアのウラジーミル・プーチン大統領(右)とロシア正教会のキリル総主教=2014年12月8日、ロシア・ツァールスコエ・セロー(AP)  ロシア正教会は現在、世界的に用いられているグレゴリオ暦ではなく、ユリウス暦を用いている。グレゴリオ暦よりユリウス暦は13日遅れる。ユリウス暦のクリスマス(12月25日)は、グレゴリオ暦では1月7日である。そのクリスマスにロシア正教会の最高指導者キリル総主教が奇妙な発言をした。

 総主教「大多数に影響なし」

 <【モスクワ=遠藤良介】ロシア正教会の最高位、キリル総主教が7日に放映された国営テレビのインタビューで経済情勢に触れ、通貨ルーブルの暴落は「国民の多数派には影響しない」などと“講釈”した。総主教は、ルーブル安が石油輸出に依存した経済の多角化につながるとも主張した。正教会とプーチン政権の密接な関係は政教分離の観点で以前から批判されており、政権擁護ともとれる総主教の世俗的発言は議論を呼びそうだ。

 米欧の対露制裁や国際原油価格の急落を受け、昨年のルーブルは対ドルで41%下落し、今年に入ってもこの基調が続いている。昨年のインフレ率は11%で、今年はさらなる物価高騰が予測されている状況だ。

 総主教はこれに対し、「国内生産者が価格をつり上げなければ、為替相場が国民の多数派に影響することはない」「為替相場はしばしば経済とは関係ない多くの要因で形成される」といった見解を披露。ルーブル安は地下資源依存からの脱却を促し、「経済力強化につながる」と述べた。

 総主教は2012年、プーチン政権の統治を「神の奇跡」とたたえ、一部世論の反発を買った>(1月9日の産経ニュース)

 ユーラシアに経済圏

 旧ソ連は「宗教は人民の阿片である」とする科学的無神論を国是に掲げていた。それだから、ソ連国家によってロシア正教会は激しく弾圧されていたという印象が強いが、それは事実と異なる。レーニン、フルシチョフが権力の座にあった時期を除いて、ソ連国家とロシア正教会は「持ちつ持たれつ」の良好的な関係にあった。1968年のソ連軍を中心とするワルシャワ条約5カ国軍のチェコスロバキア侵攻、78年のソ連軍のアフガニスタン侵攻をロシア正教会は積極的に支持している。

 そもそもロシア正教には、西欧的な政教分離の伝統がなく、教会が国家を支持することは当然視されている。かつてのピーメン総主教はブレジネフ書記長、アンドロポフ書記長、チェルネンコ書記長、ゴルバチョフ書記長を全面的に支えた。サレクシー2世総主教は、エリツィン大統領、プーチン大統領を誠心誠意支えた。そしてキリル総主教は、インナーサークルといっていいぐらいプーチン大統領の信任を得ている。

 ルーブルの急速な下落を奇貨として、プーチン大統領はロシアとその勢力圏であるユーラシアに、閉ざされた経済圏を構築しようとしている。これまで外国製の高級食材を購入していた富裕層、中流層上部も値段の安い国産品の購入に切り換えている。市民が購入する自動車や企業か購入する機械類もロシア製になっている。

 兵器販売を積極展開

 さらにロシアの軍産複合体は、ルーブル安を利用して、国際価格競争力が出てきたロシア製兵器の販売を積極的に進めようとしている。

 外貨を極力使わずに、ロシア製品を愛用するというアウタルキー(自給自足)経済を、ロシアはユーラシア圏で実現しようとしている。

 このような体制転換に当たっては、新しいイデオロギーを構築する必要がある。まさに「アウタルキー」というイデオロギーをキリル総主教は説いているのだ。ロシアでは最近、保守主義が台頭している。その一部には外国人嫌いの排外主義的傾向がある。キリル総主教のこの演説は、経済上の排外主義を称揚する内容で非常に危険だ。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優

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