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【国際政治経済学入門】人民元の「国際通貨」認定 ちょっと待った!

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【国際政治経済学入門】人民元の「国際通貨」認定 ちょっと待った!

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日中の貿易総額=2000年~2014年。※データ出所:CEIC  2月下旬は中国の旧正月休みだ。この期間、ブランド物で着飾った中国人旅行者が東京・銀座で人民元決済用のカードを使う。デパートや高級ブランド店、電器ショップなどは、人民元大歓迎だ。貿易代金の元建て決済もアジアを中心に広がりつつある。ならば中国の通貨、人民元は「国際通貨」といえるだろうか。

 IMF、SDRの見直し検討

 5年前、国際金融社会の総本山、国際通貨基金(IMF)は人民元を「自由利用可能通貨」として認めなかった。自由利用可能通貨とは、世界のどこでも支払い、ビジネス決済やその準備資産、あるいは資産運用手段として使われる通貨のことで、ドルはもちろん円、ユーロもそうだ。

 自由利用可能通貨となれば、元はIMFが持つ仮想通貨「SDR(特別引き出し権)」を構成する主要国際通貨の一角に組み込まれる。SDRは現実には流通していないが各国の外貨準備用として使われる。現在、SDRはドル、ユーロ、円、ポンドの4大自由利用可能通貨で構成される。元が加わると、世界各国の通貨当局や中央銀行は元を外貨準備として持つようになり、元は国際決済用として一挙にグローバルに普及しよう。

 IMFはSDR構成通貨について5年ごとに見直す。そして今、元を自由利用可能通貨として認定するか、検討中だ。IMFで米国と並んで強力な発言力を持つ英国は、ロンドン金融市場での人民元取引を一挙に拡大させようとして、チベットなどの人権問題での中国批判を差し控えるほどだから、元支持に回る公算が大きい。

 グラフが示すように、何しろ、中国の貿易規模は今や日本の3倍近い。東南アジアと韓国には人民元建て貿易決済が急速に普及し、「人民元経済圏」と化しつつある。日本の銀行や商社業界も元建てのビジネス取引を競い合うありさまだ。元建て決済の貿易額は2013年に円建て貿易を抜き、2014年は円建ての2倍以上に膨れ上がったもようだ。元はSDR構成通貨中、円に代わってドル、ユーロに次ぐ第3位にランク付けられる見通しが、英金融筋から聞こえてくる。

 中国は「管理変動相場」堅持

 だが、ちょっと待て。元にSDR通貨の資格はあるのか。

 第1に、人民元の正体はドルのコピーである。中国人民銀行はドルの増量に合わせて元を発行している。人民銀行は「管理変動相場制」のもと、人為的にほぼ固定した相場で流入する外貨をことごとく買い上げ、資金供給する。元は姿と表記を変えたドルもどきである。コピー通貨が、変動相場制であるユーロ、円やポンドと対等の国際準備・決済用通貨であるはずがない。

 第2に、中国は管理変動相場を堅持するために、上海などの金融市場への外からの資本流入を厳しく規制している。巨額の外貨が出入りすると、人為的な相場では対応できなくなるからだ。ロンドン市場などでの元取引は中国系銀行が介在し、元の資金の大部分を本国に還流させるようにしている。国際的に自由に流通する元建ての金融資産の規模も種類も限られる。そんな通貨がユーロ、円並みの国際通貨に認定されるなら、他の国だって自由変動相場をやめて管理相場に変え、金融市場を規制すればいい。

 中国でたまる外貨の大半は外貨準備となって膨張している。習金平指導部はその外貨を使って、アジア・インフラ投資銀行(AIIB)など中国主導の国際金融機関を創設して、投融資先への政治的影響力を高める。人民元が国際準備通貨に認定されれば、今度は人民元を刷っては垂れ流す。そうなると、国際金融市場の秩序は不安定になるだろう。

 日本はIMF最大のスポンサーである。ところが、財務省はその影響力を使って、消費税増税を対日勧告させ、国際機関に弱い日本のメディアの論調を増税支持に向かわせた。増税の結果、アベノミクスは失速し、今年度はマイナス成長に舞い戻りそうだ。財務官僚は日本国を背負うエリートの気概があるなら、せめて不当な中国の人民元策謀阻止に邁進(まいしん)すべきだ。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS

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