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B・B・キングの愛器 ルシール 名声もたらした「最愛の女性」
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2015ビルボード・ミュージック・アワードのステージに飾られたB.B.キングの愛器「ルシール」=2015年5月17日、米ネバダ州ラスベガス(AP) スポットライトを浴びてステージで屹立(きつりつ)するギターは、さながら希代のギタリストの墓標のようである。ヘッドには「ギブソン」の商標とともに「ルシール」と女性の名が記されているのが読み取れる。「キング・オブ・ブルース」。B・B・キングの愛器である。
14日、米ネバダ州ラスベガスの自宅で亡くなった。89歳。持病の糖尿病が悪化し、在宅介護を受けていたという。写真は17日、ラスベガスで行われたビルボード・ミュージック・アワードのステージ。キングをしのんで、彼の愛器が飾られた。
キングは1925年9月16日、ミシシッピ州イッタベナのプランテーション(大規模農場)で小作人の子として生まれた。4歳の時に両親が別れ、ミシシッピ州キルマイケルに移り、祖母に育てられながら、ここでも綿花を摘んだ。
教会の牧師がギターを弾きながら黒人霊歌を歌っていたことから、音楽に興味を持つ。綿花農園でブルースを、教会でゴスペルを、そして母親のいとこで後にブルースの殿堂入りするブッカ・ホワイトからギターの弾き方と作詞、ショーマンシップを学んだ。
ブルースの誕生と進化を一人で体現したような人生である。そしてその傍らには、常に「ルシール」と名付けたギターが寄り添った。ステージなどでキングはルシールを「最愛の女性」と呼び、例えばこう歌った。
「ぼくはルシールに首ったけさ。ルシールは、ぼくを農場から連れ出してくれた。ルシールは、ぼくに名声をもたらしてくれた」
ギタリストとギターの最良の関係は、死の間際まで続く。多くのギタリストに尊敬され、世界中のファンに愛された。ステージのギターはその象徴である。
なぜか、植木等の告別式を思いだす。きまじめなジャズギタリストだった彼は、後に希代のコメディアンとして、晩年は性格俳優として人気者となった。葬儀の祭壇中央には彼の愛器が立てられた。これも、ギブソンのギターだった。
≪ブルースは王様を失った≫
コード進行やメロディーラインにバリエーションが少ないことから「ブルースに名曲なし。ただ名演があるのみ」といわれることもある。
ギタリストはそれぞれ、個性に富み、1小節も聴けばそれが誰の演奏か分かることが多い。だがB・B・キングのギターは「最初の1音を聴けば分かる」と評された。
単音を駆使し、チョーキングやビブラートで「BBのギターは弦が泣いている」と憧れられた。例えば、ルイ・アームストロングのロングトーンに似ている。後進のトランペッターを「どうやって吹いているか完全に理解しているのに、同じ音が出ない」と悩ませたように。レニー・クラビッツは「音符を1000個弾いても、BBの弾く1個に及ばない」と表現した。
ローリング・ストーン誌の「最も偉大な100人のギタリスト」で、キングは3位にランクされている。だが、1位ジミ・ヘンドリックス、4位エリック・クラプトン、9位ジミー・ペイジ、10位キース・リチャーズ、14位ジェフ・ベックらは、いずれもキングの影響を強く受けたとされる。
共演の機会も多かったクラプトンは彼の死に、「長年の間、僕に与えてくれたインスピレーションや励ましに友人としてありがとうといいたい」とコメントした。他にも実に多くの人が哀悼メッセージを寄せた。
オバマ大統領は「BBがいなくなっても、感動は永遠だ」「米国の音楽を世界にもたらした大使」「ブルースは王様を、米国は伝説的人物を失った」などとする声明を発表した。(EX編集部/撮影:AP、ロイター/SANKEI EXPRESS)