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あいさつは「最高の武器」 萩原智子
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「同じ施設で合宿をしているのに、あいさつもろくにできない。同じ競技を志す仲間として、情けない。あいさつは、基本だよね」
今年のゴールデンウイーク中のこと。合宿を行ったある指導者が、残念そうにつぶやいていた。所属するクラブが違ったとしても、たとえ初対面だったとしても、水泳というスポーツを通じてつながる仲間である。私もこの一件を知り、残念な気持ちになった。
私は現役時代、指導者から「同じ施設内にいる人は、何かしらの関係者だからしっかりあいさつをしなさい」と言われて育ってきた。もちろん初めからあいさつができたわけではない。恥ずかしさもあり、勇気を振り絞ってあいさつをしていた記憶もある。
しかし意識するようになるにつれ、合宿や試合で同じ宿舎になった人たちと、ごく自然にあいさつができるようになっていった。初対面でもあいさつをすることで次には会話が始まり、友人になるきっかけになったこともあった。知り合いになった指導者からは、自分自身が困っているときにアドバイスをもらったこともある。
ひとつのスポーツに没頭すると、知らず知らずのうちに行動範囲が狭くなってしまうことが多い。私もオリンピック出場を目指している中で、生活範囲が自宅、学校、プールだけになっていた時期があった。そういったときは当然、毎日接する人もほとんど変わらない状態である。しかし困ったことも不便なこともなく、自分自身の視野が狭くなっていることにすら気がつかなかった。そんな時、私の記録が伸び悩み、4年間もの長い大スランプに陥ったのだ。苦しい時間は、孤独を感じる時間でもあった。
そんな私を支えてくれたのは、積極的なあいさつで知り合った指導者や仲間、友人たちの存在だった。これまで学校で話したことのなかった同級生との会話や、インターハイのボランティア学生との出会い、他競技の指導者との交流、競泳以外の練習への参加、友人のすすめてくれた本、それまで読まなかった新聞…。さまざまな分野で頑張っている人たちの存在の影響から、ほんの少しだけでも視野を広げることができたことで、気がつけたことがたくさんあった。どんな小さな出会いでも、出会いは自分に刺激を与えてくれた。振り返れば出会いは自分自身と向き合う時間でもあり、自身を成長させるチャンスでもあった。
大きな壁を乗り越えるためには、膨大なエネルギーが必要だ。乗り越えたいと思った壁を目の前にしたとき、出会ったさまざまな人やモノが、この壁に対してみえないはしごをかけてくれているように思う。そのはしごに気がつけるか気がつけないか…。それは自分次第だろう。視野を広く持ち、素直な心で受け入れることで、乗り越えるヒントを手にすることができるのではないか。
成長できるチャンスは、人やモノとの出会いによってもたらされる。そのチャンスを手にするためには、オープンハートで、たくさんの人とコミュニケーションを取ること…。そう自分次第なのだ。
小学校の頃、「大きな声であいさつをしましょう!」と先生から言われたことを思い出す人もいるだろう。先生は、人生の第一歩、最高のコミュニケーション能力を教えてくれている。あいさつは、長い人生で自分自身を支えてくれる最高の武器だと私は思う。(日本水連理事、キャスター 萩原智子/SANKEI EXPRESS)