思春期の娘からアイデア

　ドクター監督は「笑顔の絶えなかった私の幼い娘が、思春期に差し掛かったある日、突然無口になり、何を考えているか分からなくなった。娘の頭の中でいったい何が起こってるのだろう？と思い悩んだ自らの経験に着想を得ました」と映画化のきっかけを明かすと、カルメン監督は米国での大ヒットを踏まえ、「大勢の人々が共感し、喜んでくれたことが何よりもうれしいです。人間の感情というのは誰もが心に宿している普遍的なものなので、お客さんは自分の物語として共感してくれたのだと思います」と推し量った。

　本作は、世界初の長編フルＣＧアニメーション映画「トイ・ストーリー」の公開２０周年を記念して制作され、物語の舞台は１１歳の少女ライリー（声・ケイトリン・ディアス）の頭の内部に設定された。そこでは、ヨロコビ（声・エイミー・ポーラー）、カナシミ（声・フィリス・スミス）、イカリ（声・ルイス・ブラック）、ムカムカ（声・ミンディ・カリング）、ビビリ（声・ビル・ヘイダー）といった５つの感情が共同生活を送っており、昼夜を問わずライリーの感情をコントロールしている。

　《父（声・カイル・マクラクラン）の仕事の都合で、生まれ育ったミネソタの田舎町から都会のサンフランシスコに引っ越すことになり、動揺するライリー。頭の中の感情たちはそれぞれ、ライリーの心を静めるべく奔走するが、かえってそれが大混乱を招き、カナシミはライリーの大切な思い出を悲しい思い出に書き換えてしまうという大失態を演じる。大事な思い出を復元しようと慌てるヨロコビだったが、今度は自分が機械の操作を誤り、カナシミもろとも一緒に司令部の外に放り出されてしまう…》

　若い親たちにも見てほしい

　会見後、ＳＡＮＫＥＩ　ＥＸＰＲＥＳＳの取材に応じたカルメン共同監督は「僕がとりわけ緻密に描こうとこだわったのは、主人公のヨロコビがライリーに幸せな気持ちを取り戻してあげようと、頭の中を必死に駆け回る大冒険であり、そんなヨロコビ自身が抱く感情でした。子の親でもある私にとって、ヨロコビがライリーに抱く優しい感情はとても共感できるものでした。親というものは、自分の子供に対し『いつまでも幸せでいてほしい』と願うものですからね」と制作過程を振り返った。

　一方で、カルメン共同監督は、子供たちがただただおもしろおかしく暮らしていけるほど現実は甘いものではないことも指摘する。「最終的には、生きていくため、自分自身を成長させるためには、悲しみを含めたありとあらゆる感情を経験することが必要なんだよ－というメッセージも受け取ってほしいと願っています」。これから本作を鑑賞するまだ若い親たちにもその願いを託す。子の思春期という洗礼を受け、２７歳の息子と２５歳の娘を育てあげたカルメン監督だけに、本作が紡ぎ出す世界はとても他人事（ひとごと）とは思えないようだ。７月１８日、全国公開。（高橋天地（たかくに）／ＳＡＮＫＥＩ　ＥＸＰＲＥＳＳ）

　■Ｐｅｔｅ　Ｄｏｃｔｅｒ　１９６８年１０月９日、米ミネソタ州生まれ。９０年、アニメーターとしてピクサー・アニメーション・スタジオに就職。世界初となる全編フルＣＧの長編アニメーション映画となった９５年「トイ・ストーリー」に原案、アニメーター監督として参加したほか、２００１年「モンスターズ・インク」で共同監督、０９年「カールじいさんの空飛ぶ家」で監督を務めた。

　■Ｒｏｎｎｉｅ　Ｄｅｌ　Ｃａｒｍｅｎ　１９５９年１２月３１日、フィリピン生まれ。幼少時代から絵を描くことが大好きで、絵やアニメに関わる仕事を模索したが、父親が「絵では飯が食えない」と反対し、広告会社に就職した。３０代で移住した米国でピクサー・アニメーション・スタジオに入社し、念願のアニメーターに。主な監督作品は「カールじいさんの空飛ぶ家」のスピンオフとなる短編「ダグの特別な１日」など。