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台所事情に翻弄…英新聞界の現実露呈 FT売却 ピアソン「教育事業注力」

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台所事情に翻弄…英新聞界の現実露呈 FT売却 ピアソン「教育事業注力」

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英首都ロンドンのスタンドに並ぶ経済紙、フィナンシャル・タイムズ=2015年7月21日(AP)  英有力経済紙、フィナンシャル・タイムズ(FT)の日本経済新聞への売却は、英国で衝撃を与えている。英国では身売りする新聞が相次いでいるとはいえ、黒字経営の有力紙さえ所有者の事情で売却されるという現実が露呈したためだ。インターネットメディアの台頭で経営環境が激変するなか、言論の自由を守ってきた英新聞界にも新たな時代の波が確実に押し寄せている。

 借金返済やデジタル投資

 「最良の英紙まで売られるのは寂しい」「日本企業のPR紙にならないことを祈るだけ」…。日経新聞によるFT買収について、英国の関係者からはこうした声が聞こえてくる。

 FTは欧米の政財界に強い影響力を持つ。黒字・拡大経営を続けてきたが、売却の背景にあるのは、60年近く所有した英教育最大手、ピアソンが「本業の教育に注力する」と経営方針を転換したことだ。

 買収交渉で英米系企業はいち早く撤収。日経新聞側が8億4400万ポンド(約1600億円)での買収を提案し、ドイツのメディア大手、アクセル・シュプリンガーとの競り合いに勝利した。

 売却で得る資金は、年金基金の充当や借金返済、教科書・教材などのデジタル化新事業への投資に使われるという。ピアソンは「本業が苦しくなる中、ジャーナリズムへの情熱を失った」とささやかれている。

 さらに、「FTグループの情報機関(インテリジェンス)」と呼ばれている有力経済誌、エコノミストについても、株式の売却が検討されている。その一方、ロンドン中心のFT本社ビルは手放さなかった。今後、利益をもたらす可能性があるためだ。

 世界有数の新聞文化を創り上げてきた英紙も、発行部数減とそれにともなう広告収入の減少で日本以上に厳しい状況に置かれ、今や身売りは日常的だ。

 夕刊紙、イブニング・スタンダードが5年余り前に、元旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身のロシア人大富豪に買収され、広告と事業を収入源としたロンドンのフリーペーパーに変身。高級紙、インディペンデントも同じ富豪が買収した。

 最も売れている大衆紙、サンや高級紙のタイムズは、メディア王ともいわれるルパート・マードック氏率いる米ニューズ・コーポレーションが買収し傘下に置く。

 報道姿勢の変化への懸念も出るなか、FTは25日、「新しい未来、恐れず偏らず」と題した社説を掲載。「日経ファミリーに加わり、名誉ある歴史に次なる章を書き記すのを楽しみにしている」と記した。(ロンドン 内藤泰朗/SANKEI EXPRESS

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