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カンボジア、初の国内向けメイド派遣会社 労働力流出の歯止めに

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カンボジア、初の国内向けメイド派遣会社 労働力流出の歯止めに

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 そろいの白いポロシャツを着てハタキを手にほほ笑む女性や子供をあやす女性。昨年5月、プノンペンで開業したカンボジア国内向けメイド派遣会社ミンホー・ホームサービスの看板には、「プロフェッショナルな家事労働」を意識した写真が並ぶ。同社によれば、国内市場向けにメイドやベビーシッターなど家事労働者を専門的に派遣する業者は初めてという。

 雇用ミスマッチ

 「若い労働力が豊富」というイメージのカンボジアだが、国内ではメイドや工場労働者を中心に国外への出稼ぎが急増し、国内で家事労働を担うメイドなどが不足している。同社幹部のキン・ビアスナさんは「特に首都プノンペンでは、メイドやベビーシッターがなかなか見つからない状態です」と言う。

 ビアスナさんによると、国外出稼ぎのほかに、国内に適正な雇用マッチングシステムがないこともメイド不足の原因だ。

 労働市場の中心はプノンペンなど都市部だが、潜在的な労働者の多くは地方の農村地帯に住む。就職は、親類や知り合いのつてがなければ、民間の斡旋(あっせん)業者に頼るしかないが、国内市場の情報は少なく、地方在住者の職探しは簡単ではない。

 ミンホー・ホームサービスには現在、全国のほぼすべての州から約600人の女性が登録している。登録者のうち95%がプノンペン以外の在住者であることからも、地方での就職情報がいかに不足しているかがうかがえる。

 求職者の登録料は無料。就職口が決まれば、同社で3日間の合宿をして家事労働の心得など訓練を受ける。また、求職者と同社の間では、最低2カ月は労働契約を破棄しないことと、それに違反すれば罰金を支払うことなどを定めた契約書を結ぶ。一方、求人側は紹介1件につき50ドル(約4670円)前後を同社に支払う。

 同社経由で派遣されるメイドなどの月額賃金は最低85ドル。一般の相場よりも高いといわれるが、開業から今まで、常に100~150人が雇われている状態だ。

 さらに現在、100件ほどが条件の合う登録者を待っているという。「それほど人手不足なのです。仲介業者を通しているので安心して雇うことができるのもメリットです」とビアスナさんは言う。

 出稼ぎ先に問題

 ミンホー・ホームサービスの設立には、もうひとつの目的がある。ビアスナさんは、カンボジアの労働力を国外に流出させたくないという思いで事業を運営していると説明する。

 カンボジア労働職業訓練省や国連の国際労働機関(ILO)によれば、カンボジアの国外出稼ぎ(年間新規就労者数)は、2003年の1300人程度から、10年には3万人にまで急増している。累計で約30万人が国外で働いているとみられ、家事労働、工場労働、農業、建設などがおもな職種だ。

 国外出稼ぎの就労先は、タイ、マレーシア、韓国が多い。しかし、人数が増えるにつれ、派遣先での給与不払い、劣悪な労働環境、暴力、人身売買などの問題が発生。1998年にメイドなど家事労働者派遣が始まったマレーシアでは問題が多発し、カンボジア側が12年から新規派遣を中断する事態に陥った。

 それでも賃金の高い国外出稼ぎは人気があり、国を出る人は今も多い。ビアスナさんは「たとえばタイでは最低でも月350ドルは稼げるといわれ、最大のライバルです」としたうえで、こう訴える。

 「ただ、賃金の高さよりも、カンボジア国内の家族の近くで不安なく働くことを優先する人たちもたくさんいます。国外就労だけではなく、国内にも仕事があることをもっとアピールしていきたい」(在カンボジア・ジャーナリスト 木村文)

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