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日銀の思惑、皮肉な結果に 日本国債めぐる2つのハードル
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黒田東彦日銀総裁
黒田日銀による異次元の金融緩和に伴い、日本国債市場が動揺し、指標となる10年物国債の流通利回りは乱高下を繰り返している。
2年間で国債を買い入れるなど270兆円ものベースマネーを供給する大胆な金融緩和策により、国債の流動性が枯渇したためで、日銀は1回当たりの買い入れ額を少なくするため、買い入れ回数を増やすなどの措置に乗り出している。
そうした中、「これだけ国債の価格が乱高下するようであれば、10年物国債の指標性は失われたようなもの」(市場関係者)との声が漏れ始めている。事実、10年物国債の流通利回りに連動する各種の金利にも異常が生じている。
メガバンクが一斉に住宅ローン金利を引き上げたのはその典型だ。日銀は国債を買い入れることで、長期金利を低下させ、企業の設備投資など借り入れ需要を喚起したいとしているが、その思惑とは逆に長期金利が高騰する皮肉な結果となっている。
今後の焦点は、長期金利はどこまで上昇する可能性があるかに移るが、その際、2つのハードルがあると指摘される。一つは金融機関が日銀に国債を売却する際のインセンティブ。金融機関の調達金利はメガバンクで0.8%、全銀ベースで1.0%である。
これ以上の価格でなければ金融機関は日銀への売却ニーズが生じない。もう一つは国の予算上の国債の想定利回り。今年度は1.8%に設定されている。10年物国債の利回りがここの水準以上に上昇することがあれば、国は国債の利払い費について予算に穴が開くことになる。
国は国債の利払いに備えた想定金利(積算金利)を、2013年度予算案から従来の2.0%から1.8%に引き下げた。国債の利払いのために財務省がプールする準備金を少なく見積もることで当初の予算規模を低く見せる「裏技」である。
しかし、政府は一方で、日銀に2%のインフレターゲットを求めており、デフレからインフレへとシフトすることで、今後、金利は上昇する可能性が高い。
「想定金利はむしろ引き上げられてしかるべきだ」(民主党議員)と言っていい。インフレターゲットとは矛盾する措置である。
財務省は金利が上昇した場合でも国債の償還に支障が出ないよう、利払いの想定金利を02年度以降2.0%に設定している。しかし「民主党政権との違いを印象付けるため安倍政権は前提となる想定金利を下げることで国債費を圧縮したようにみせた」(民主党議員)というわけだ。
政府関係者は「赤字国債の増発、とくに復興財源としての赤字国債の増発に対し市場が過剰反応しないよう配慮した」と説明するが、表面を取り繕った感は否めない。
長期金利はここ数年、低下基調にあり、現在の10年物国債の利回りは0.8%前後。財務省は当初予算案の前提である想定金利(2.0%)と実績との差額は数兆円に及ぶ。
12年度も1.4兆円ほど余った。本来であれば、この余剰分は国庫に戻すべきものであろう。(ジャーナリスト 森岡英樹)