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日本が危ない…新種サイバー攻撃急増 東京五輪で集中砲火?

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日本が危ない…新種サイバー攻撃急増 東京五輪で集中砲火?

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身代金型ウイルスに感染したパソコンの画面(トレンドマイクロ提供)  日本全国で今年、これまでなかった新種のサイバー攻撃が急増している。しかも、個人が既存のウイルス対策ソフトを導入しても確実な防衛は難しいケースが多い。開催が決定した2020年東京五輪にはすでに、サイバー犯罪者が多く存在するとされる中国や韓国から中傷や攻撃が相次いでおり、専門家は「2020年に向け、日本が危ない」と警鐘を鳴らしている。

 「未知の攻撃」急増

 「画面に突然、英語の文章が出てきてパソコンがフリーズした。電源を落としてもなおらない」

 今年5月初旬。ウイルス対策ソフト「ウイルスバスター」を開発、販売する「トレンドマイクロ」(東京)のサポートセンターに男性から電話があった。一見よくある相談だが、内容を詳細に確認すると、日本ですでに蔓延(まんえん)する従来のウイルスよりも悪質なサイバー攻撃の実態が判明した。

 男性のパソコンが感染したのは、使用中に画面を操作不能にした上で、復元名目に金銭を不法に要求する新種のサイバー攻撃。パソコンを停止させたうえ米国政府組織「国土安全保障省」などを名乗り、「違法行為をしたのでパソコンをロックした。解除するには300ドル(約3万円)が必要」という英語メッセージが表示された。

 このウイルスの怖さは、何度電源を落として再起動してもメッセージが表示され続け、ユーザーをパニックに陥れる点だ。しかも、アダルトサイトなどだけでなく、国内外の企業ホームページ(HP)を閲覧しただけで個人が感染するケースが多い。パソコン操作の回復を人質にとる形で金銭を要求する手口から「身代金型ウイルス」と呼ばれ、欧州や米国などで横行していたが、日本ではこれまでほとんど被害報告はなかったという。

 だが5月以降、身代金型ウイルスの被害報告はトレンド社に殺到。5~10月の間に国内で180件以上もの被害が確認された。

 五輪で日本に集中砲火?

 こうした「未知」のサイバー攻撃は、他にも目立ち始めている。トレンド社は今年7月の調査で、オンライン銀行のホームページ(HP)でログインする際、利用者のIDやパスワードを入力させる偽の画面に誘導する新種ウイルスに感染したパソコンの96%、2万台が日本に集中していると明らかにした。

 同社は「海外である程度被害を出して稼げたサイバー攻撃は、富裕層が多い日本でも試される傾向が高い」と分析する。

 新種のサイバー攻撃をさらに日本で急増させる要因として懸念されているのが、2020年の開催が決まった東京五輪だ。

 「東京五輪をボイコットしよう」。五輪開催が決定した9月中旬。ネット上には中国人とみられるユーザーによる東京五輪への中傷が殺到した。韓国でも、国際オリンピック委員会(IOC)総会の直前、韓国メディアが東京電力福島第1原発の汚染水問題を取り上げ、東京五輪の招致辞退を求める記事や社説を掲載。

 韓国政府は福島県など8県からの水産物輸入を全面禁止し、官民挙げて徹底した“妨害工作”を繰り返した。米国のセキュリティー専門家は、「サイバー犯罪者が多く存在するといわれる中国や韓国からの攻撃が今後、日本で多発する可能性が高い」と指摘する。

 事実、東京五輪の開催が決定した直後の9月22日早朝、1964年東京五輪の女性選手村跡地に建てられた青少年合宿施設を運営する「独立行政法人 国立青少年教育振興機構」(東京都渋谷区)の公式ホームページの画面が何者かに不正に書き換えられ、一時閲覧できない状態に陥った。

 対策ビジネスは活況

 10月23日。安倍晋三首相は参院予算委員会で「武力攻撃の一環としてサイバー攻撃が行われた場合は、自衛権を発動して対処することが可能。対処体制の強化を積極的に進める」と強気の姿勢を示した。だが、現実にはわが国のサイバー攻撃に対する防衛策は海外に比べ圧倒的に遅れている。

 独立行政法人・情報処理推進機構(IPA)によると、日本では国内のセキュリティーを守る技術者「ホワイトハッカー」が2万人以上不足。米国では高校でもセキュリティーの専門授業が充実しているが、日本でハッカーを専門的に養成する学術機関は情報セキュリティ大学院大学(神奈川県)しかない。

 一方、対策ビジネスは盛り上がりを見せている。近年は関連産業の需要が高まっており、民間調査会社のIDCジャパンは、セキュリティー対策ソフトの国内市場規模が平成28年に24年比約17%増の2219億円に拡大すると予測した。

 海外市場にまで食い込む日本企業もある。NECは国際刑事警察機構(インターポール)からシステムを受注。世界をまたにかけたサイバー商戦と注目されるが、西日本の企業も負けてはいない。

 パナソニックは5月、企業や大学などへのサイバー攻撃に対し、攻撃元の解析や対策を手掛ける「ネットワークセキュリティ事業」への参入方針を固めた。

 現在約2千万円のサイバー対策事業売上高を、27年度には約5倍に拡大する方針だ。京セラ子会社も昨年秋、スマートフォン(高機能携帯電話)向けウイルス対策ソフトの開発会社を買収した。

 ただ、大手のビジネスが盛んな中で、中堅・中小企業はサイバー攻撃への対応策が遅れているといわれている。予算が足りず、企業のセキュリティーを守る担当者が一人しかいない事例も珍しくない。

 トレンド社は近く、偽サイトの脅威傾向などをテーマに民間企業向けのセミナーを実施する方針だ。

 五輪の開催時期に、日本が海外から集中攻撃を浴びないためにも、人材育成の強化や新種ウイルスの研究がさらに求められている。(板東和正)

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