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ビットコインが照らし出す先進国と新興国通貨、金の明暗

ニュースカテゴリ:政策・市況の海外情勢

ビットコインが照らし出す先進国と新興国通貨、金の明暗

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 米国のニューズウィーク誌が、電子空間で創造される無国籍通貨ビットコインの発明者と目される日系米国人の「サトシ・ナカモト」氏の身元を突き止めたと報じた。その報道通りとすれば、ちょっと風変わりな初老の日本人の頭脳が通貨の国際力学に大きな衝撃を与えていることになり、余計に興味が湧く。

 戦後の国際通貨体制は1971年8月の金ドル交換停止以来、どの通貨も漠然とした「政府の権威」でしか保証されない。しかし、金融市場の発達で米・欧・日の通貨は巨大な金融資産によって裏づけられ、相互に交換できる国際性がある。ビットコインの特色は、それ自体が価値を持つ無国籍通貨。国籍はあるが国際性に欠ける通貨建ての金融資産を国際通貨建て資産に移し替える媒介手段として重宝される。つまり、ドルやユーロや円などの国際通貨はビットコインと共存し合う半面で、中国人民元やロシアルーブルなど新興国通貨の多くはビットコインによって存在が脅かされる。

 ビットコインは、2010年7月からネット上で各国通貨との取引が始まった。ビットコインの入手(「採掘」と呼ばれる)は、複数のコンピューターを駆使してきわめて複雑で高度な数式を解くことが条件となる。

 鉱物の「埋蔵量」に相当する総量は限られ、採掘者が多くなればなるほど掘り当てられる量(供給)は少なくなる仕掛けだ。このため利用者(需要)の増加で相場が上昇する。

 ビットコインは国境を軽々と越え、アフリカの紛争国の通貨から北朝鮮の通貨ウォンまでも交換できるというから驚く。昨年3月に勃発したキプロスの金融危機は、ビットコインの存在価値を証明した。同国金融機関に資産を預けていたロシアの大口預金者がビットコインに殺到したために、60ドル前後だった相場は3倍以上に高騰した。

 その後、ビットコイン取引が急増してきたのが中国だ。左ページ上のグラフを見よう。昨年夏から秋にかけて中国では高利回りの理財商品の焦げ付き不安が出始めた。すると中国国内にあるビットコイン取引所がにぎわうようになり、一時は世界のビットコイン取引の3分の1を占めるようになった。

 人民元を売って41ビットコインを買い、資産を第三国に移す。これに引きずられてビットコイン相場は急上昇し、10倍に達した。多くの中国の富裕層とその一族が永住権を取得しているカナダ、ほぼ自由に出入りできる香港、さらにカナダに次ぐ移民先のオーストラリアは、ビットコインのATMが設置されているので便利このうえない。

 なにしろ、中国の投機マネー(熱銭)の規模は大きい。不動産相場が高騰していた2011年秋には年間ベースで3000億ドルの熱銭が外部から流入し、不動産価格が下落に転じた翌年には同2000億ドル以上の資金が国外に流出した。不動産バブルが崩壊すれば3兆ドル規模の不良債権が発生しかねない。その不安からビットコインが買われ始めたわけで、ビットコイン熱が高まれば高まるほど人民元資産が売られて、バブル崩壊を加速させかねない。

 危機感を募らせた中国人民銀行は昨年12月5日、「人民元の法定通貨としての地位を損なうのを防ぐ」として、金融機関に対しビットコインを使った金融商品や決済サービスの提供の禁止を発表した。

 金融機関の関与を封じれば、大口の資金移動は防げると判断したのだろう。このショックでビットコイン相場は暴落したが、今年1月に入ると相場は反転した。理財商品の焦げ付き不安が再燃したのだ。

 2月に入ると、大手のビットコイン取引所、マウント・ゴックスがハッカーによる攻撃を受けて払い戻し停止に追い込まれ、ビットコイン相場は下落基調が強まったが、ウクライナ危機が勃発すると反転し始めた。

 中国、ロシアの国民はともに自国通貨をあまり信用していないから、ビットコインを通じて資本逃避が起きやすい。そこで両国の指導者はビットコイン退治に躍起となる。

 ビットコインの可能性をもうひとつ示すのが次のグラフである。ビットコイン相場が上昇する局面では金相場が下がり、下落局面では金が買われるという傾向が読み取れる。ビットコインは金と同じく投機対象である。従って通貨としてはあまりにも不安定といえるが、資産保有手段としては金の代替手段として輝いているのだ。(ネットマネー)

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