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政治混乱のタイ、新車販売激減 ホテルなど10万社以上の企業が影響か

ニュースカテゴリ:政策・市況の海外情勢

政治混乱のタイ、新車販売激減 ホテルなど10万社以上の企業が影響か

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政府高官人事での職権乱用で憲法裁判所が違憲・失職判決を下した後に記者会見するインラック前首相。自身の仕事内容について「満足している」としながらも、時折、無念さをにじませた=タイ首相府のウェブサイトから  軍事クーデターにまで至ったタイの政治混乱が経済に色濃く影を落としている。タイ中央銀行が発表した今年の国内総生産(GDP)の前年比伸び率の予想は2.7%。昨年実績の2.9%に続き2年連続の下落で、2012年の6.5%から急激に落ち込んでいる状況だ。タイ中銀は「景気後退は国内の政治混乱が主因」とし、このまま明るい兆しがみえてこなければ、さらなる下落も不可避との見解だ。今年、タイ経済の行方はどうなるのか。現状をまとめた。

 自動車販売が激減

 「このまま年末まで混乱が続いたら、ホテルや飲食業、小売業を中心に10万社以上の国内企業が倒産あるいは閉鎖に追い込まれる」。今月上旬、タイ工業連盟のスパン会長は地元メディアの記者会見で怒りをぶちまけた。

 反政府派支持派が多い財閥などの大手企業はともかく、中小企業が少なくない製造業界には現政権派支持派も反政府派もいる。同会長は立場上、これまでできるだけ「中立」を保っていたが、タイ正月(4月半ば)も過ぎ、政治混乱が半年以上も続いたことから、あえて発言するようになった。

 つい先日は、作業部会の席で「今年、大学や高等専門学校を卒業した新規労働者約30万人のうち、半数が就職できない可能性がある」とも発言した。タイでは大学などを卒業した新卒者は、5月から6月にかけて就職活動を行うのが一般的。作業部会が行われた会場にはマスコミの取材者もいただけに、事務局の関係者は「会長は本気だ。相当に、おかんむり」と対応に大わらわだった。実際、部品など自動車関連企業のうち、すでに20社以上が新卒者の採用見合わせを公式に発表している。

 景気を牽引(けんいん)してきた自動車業界も新車販売台数が低迷している。トヨタのタイ法人がまとめた今年3月の全メーカー新車販売台数は、前年同月比46.7%減の8万3983台。3カ月連続で10万台割れとなった。各社が軒並み売り上げを落とし、首位のトヨタは同35.4%減、2位のいすゞは25.9%減。昨年の乗用車市場で首位を奪ったホンダは、実に68.3%減と前年同月の3分の1にまで激減した。

 タイ政府が「内需拡大策」として始めた「自動車物品税の還付措置」の期限が満了したことも大きいが、政治混乱の先行きがみえない中で消費者が財布のひもをきつく結び直したことも左右しているとみられる。

 コメの輸出も不振

 輸出産業も失速感が強い。今年3月の貿易統計によると、タイの総輸出額は前年同月比3.1%減で2カ月ぶりに前年同月の実績を割り込んだ。中でも農産物・加工品が振るわず、天然ゴムとエビ加工品、砂糖の主力3品目がそれぞれ20%を超える大幅な落ち込みとなった。天然ゴムは中国の需要減、エビは伝染病の流行などが主な要因だ。

 12年に世界首位から第3位に転落したコメ輸出も回復の兆しはみえない。政府は今年の輸出目標を850万~900万トンとしているが、昨年実績は661万トンにすぎず、目標を額面通り受け止めるのはごく少数派だ。

 事実上、市価の4割増しで買い上げる「コメ担保融資制度」の影響が強く指摘されているが、タイ産米の生産性の低さも原因とされる。タイ産の単価は、コメ輸出で世界2位のベトナム産の1.5倍と高いものの、生産コストは逆に倍以上で利益は半分しかない。面積比収穫量もベトナム産の半分程度にとどまる。コメの買い上げという「ばらまき政策」に明け暮れ、農業技術指導を後回しにしてきたツケが、こうしたところにも表れている。

 政府の「大衆迎合策」は家計債務も拡大させている。タイ中銀の調べで、13年末の家計債務残高は約9兆7900億バーツ(約30兆6430億円)。GDPに占める割合は82.3%で前年末から4.8ポイントも悪化した。14年も家計債務が拡大する見通しだといい、内需にも期待が持てないのが現状だ。

 インラック前首相の失職を受けて、米国の格付け会社ムーディーズは、最新の見通しとしてタイの格付けが今後引き下げられる可能性があることに言及した。現在は「Baa1」(BBB+に相当)、見通しは「安定的」とされるタイの信用格付けだが、政治混乱が長引く中、「気が付けば投機水準」といった事態もどうやらあり得ない話ではなさそうだ。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀晋一)

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