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中国不動産バブル崩壊不発でも…チャイナ・リスクは伝播し続ける

ニュースカテゴリ:政策・市況の海外情勢

中国不動産バブル崩壊不発でも…チャイナ・リスクは伝播し続ける

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 今回は「中国不動産バブル崩壊」というオオカミは来るのかどうかに焦点を合わせてみた。実際に検証していくと、中国で不動産バブル崩壊が現実には起きなくても、今後長期にわたってチャイナ・リスクが世界を揺るがしそうなことがわかる。

 最初に「バブル崩壊」の定義をはっきりさせておこう。単に不動産や株式などの資産相場が暴落する事態を指すとみなすのは不正確である。資産相場が継続的に下落する中で金融機関が巨額の不良債権を抱え込み、信用不安に発展して、初めてバブル崩壊になる。日本の1990年代初め、米国の2008年9月のリーマン・ショックが典型例だ。

 では、中国が上記のようなプロセスをたどるだろうか。確かに中国の不動産相場は地方を中心に下落しているが、中国人民銀行が財務状況を掌握している金融機関の不良債権が急増というデータはない。

 留意すべきは中国の「影の銀行(シャドー・バンク)」だ。地方政府機関を含む不動産開発業者は銀行からの融資と「理財商品」と呼ばれる高利回りの信託商品で資金調達している。銀行は理財商品の約半分を保証。過去5年間を合計すると銀行はおよそ17・5兆元(約300兆円)の不動産関連債権を持つ。中国のGDP(国内総生産)の3割近いので、確かに不動産相場が急落し続けると信用恐慌に発展してもおかしくないが、現実は必ずしもそうならない。

 中国には特殊な政治システムがある。共産党の指令ひとつで中国人民銀行が創出、かつ管理する巨額の資金を配分する。第1に、不動産相場が急落を続けるようだと、党中央は人民銀行と国有商業銀行に命じて国有企業や地方政府に資金を流し込み、不動産買い上げに走るだろう。理財商品が焦げ付いた場合、やはり党指令で資金が投入され、理財商品への投資家は保護され「取り付け」騒ぎを防げる。

 第2に、仮に大手国有商業銀行のバランスシートが大きく毀損しても、中国は380兆円以上の外貨準備を保有している。この外貨準備を金融機関向け資本注入用に使える。

 現に、北京当局は2000年代後半に大手国有銀行を香港などに上場させる際に、外貨準備を使って不良債権を償却第42回中国不動産バブル崩壊不発でもさせた。信用不安は銀行の債務超過が露見したとき起きるのだが、不透明な党指令型のシステムでは見えなくすることも可能だ。そんな具合で時間を稼いでいるうちに不動産相場が反転すればまずは一件落着となる。

 グラフを見ると、不動産相場はリーマン・ショック後に急激に落ち込んだが、銀行による不動産融資の増加とともに急回復した。その後、不動産熱の過熱を警戒した北京当局は不動産融資圧縮を国有商業銀行に命じたところ、相場は急降下し、今度は不動産相場崩落の懸念が生じた。

 そこで2013年には融資規制を解除して相場にテコ入れした。すると相場は再上昇し始め、不動産市場崩壊説の広がりを食い止めた。今年に入って不動産相場は弱含みだが、同グラフが示すように当局が不動産向け資金を流出させて相場を維持する手法は依然、有効なのだろう。

 だが、実体景気のほうは回復力が弱い。下のグラフは、鉄道貨物輸送量と中国に流出入する投機資金の推移である。鉄道貨物輸送量は、李克強首相が最も信用しているといわれる経済指標である。同輸送量はリーマン・ショック後に前年比マイナスに落ち込んだのに対し、GDPの実質伸び率は7%だったのと大きくカイ離したが、景気の実相は鉄道貨物が示すようにマイナス成長だったにちがいない。

 昨年半ば以降も輸送量はマイナスに落ち込み、リーマン・ショック後並みの不況に陥ったことを示している。輸送量は昨年末に持ち直したが、回復力は弱々しく、今年は再び前年を下回った。投機資金はこの景気動向に敏感で、再び逃げ出す恐れは十分だ。

 以上を総合すると、党指令型金融の中国は不動産バブルの完全崩壊を防ぐことは十分可能だ。その半面で党指令でカネを強制的に注入しないと不動産相場は維持できない。

 しかも内需、外需とも振るわず、中国経済は長期低迷に入ったとの見方も出る始末だ。こうして海外投資家の中国経済・市場への疑念は残るので、不動産や株価、購買指数など中国の市場や景気指標が下降するたびに、グローバルな市場不安へとリスクが伝播し続けるだろう。(ネットマネー)

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