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「人間らしさの人類史」に貢献 クチネッリ氏が対話する2千年前の「彼」

安西洋之
安西洋之

 今から7年半前、初めてブルネッロ・クチネッリ氏にインタビューした。その際、彼はぼくに本をくれた。米国の心理学者であるスティーブン・ピンカーによる『暴力の人類史』である。「この本には大切なことが書いてある。暴力死は減少している。世の中は着実に良くなっているのだ」と渡してくれた。

 その場に本を持ってくるように彼が秘書に言ったとき、この人は自分の気に入った本を人にあげるためにまとめ買いしているのだと知った。それもプレゼントする人に合わせ、イタリア語と英語の両方を用意している。  

 彼はイタリア中部・ウンブリア州の小さな村、ソロメオにある高級ファッション企業、ブルネッロ・クチネッリの創業者である。人が人間らしく生きられるよう貢献したいと事業をしている。そのため「人間主義的経営」と称され、世界の経営学者やメディアからも賞賛を受けている。

 クチネッリ氏は2人の娘たちが結婚するとき、自分の選んだ本を千冊ずつプレゼントしている。何を次世代に伝えていくべきなのか、選書の判断にすべての鍵がある。

 さて10月28日、ミラノの劇場でクチネッリ氏がソロメオに図書館をつくるとプレス発表した。2014年、同じ壇上で「ソロメオの丘にある中世の街の再生が終わり、これから平野の風景を美しくしていく」と語った。そして、4年後、プロジェクトは完了した。世界中から500人のジャーナリストを招きお披露目をした記事は、「風景の美醜に常に敏感であれ 『まもることにコミットする』大切さ」に書いた。

 今回のプロジェクトは2024年落成を目指す「ソロメオのユニバーサル図書館」だ。これから千年以上先にも残る本を集めた図書館で、分野は哲学、建築、文学、詩、職人技や職人仕事に特化する。最終的には4-50万冊の所蔵になるだろうが、2-30万冊を開館時点の目途としている。

 「分野の幅よりも深さを重視する」とクチネッリ氏は話す。

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