タイを旅行しているのにお金は中国に流れる
【清野】ゼロドルツアーの仕組みを簡単に説明しますと、たとえば中国の旅行業者が、タダもしくはタダに近い激安料金のツアーを組んで、お客を大量にタイやバリ島に送り込みます。
現地では、ほぼ強制的に宝石店などでの買い物が組み込まれ、お客はそこで町の相場とはかけ離れた、高い買い物をさせられます。
宿泊は中国資本のホテルで、ガイドは中国人、バスも中国の業者と提携している会社、店の経営者も、もちろん中国人。それら事業者の売り上げは、ほとんど現地に落ちることなく、中国に流れるようになっています。とりわけ最近は、買い物には「WeChat Pay(ウィチャットペイ)」「Alipay(アリペイ)」という中国の携帯電話経由の決済システムを使いますから、お金は直接中国に入って、現地の税金逃れにもなるし、マネーロンダリングにもつながっていきます。
【カー】16年にタイ政府が調査したところ、このようなゼロドルツアーが毎年約20億ドル(2200億円)の損失をタイ経済に与えているという結果が出ています。16年から18年にかけて、タイとベトナムは対策を打ち出して、観光業界、ホテル業界、税務署などの取り締まりを強化していますが、なかなか効果は表れていません。
【清野】観光の悪用ですね。
観光客が来ても「地元の観光振興」にはならない
【カー】この話はまさに、奄美大島の大型クルーズ船問題の根っこにあるものです。これまでに奄美に伝わっていた話では、アメリカの大手クルーズ会社がその筆頭となっていますが、外国籍のクルーズ船で中国人観光客を大量に島に連れてきて、乗客用に作ったショッピングセンターで買い物をさせる。
施設事業者がアメリカや中国系をはじめ、外資系企業なら、利益は日本にではなく、よその国に流れます。乗客はクルーズ船内に泊まり、現地に泊まるわけではありません。そのため迎え入れる寄港地が、観光関連の収入で潤う機会は少ない。むしろ、税金を使って諸設備を整備した分、赤字になる恐れもあります。
【清野】まさにゼロドルツアーと酷似しています。ただ、奄美大島で寄港地建設に賛成している人は、大勢の観光客で土地が賑わうから観光振興になる、という目算を持っていると思いますが。
【カー】大型クルーズ船は、宿泊も食事もエンタテインメントもショッピングも、何もかもその船の中で完結します。もし寄港地に上陸する観光ツアーを組んだとしても、その料金は、基本的に運営企業に行く仕組みになっている。