「ビジネス視点」で読み解く農業

スマート農業だけで終わらせないために 農業の「DX化」を考える (3/4ページ)

池本博則
池本博則

■農作業の効率化を進めるスマート農業が推進されている

 農業界においては農林水産省において2019年度から50億円もの関連予算を初計上し、「スマート農業元年」としてICTやロボット技術を取り入れ、農作業の効率化を図っていくための取り組みについての支援が始まっています。

 その代表的なものとしては2019年からスタートしている「スマート農業実証プロジェクト」という日本全国でスマート農業を推進していくための実証実験をおこなうプロジェクトが存在しています。

 同プロジェクトは初年度全国69地区で生産者だけではなく、大学や農業試験場などの研究機関、民間企業でコンソーシアム(共同事業体)を組織し、現場での実証を行い、様々なデータの収集がはじまっています。

 令和3年3月に農林水産省および、農業・食品産業技術総合研究機構から本事業についての実証成果の中間報告が発表されました。

 その中間報告はスマートの農業から得られた効果の方向性がいくつか垣間見れる、とても面白い内容でした。

■スマート農業で実現できる方向性(1) 労働時間の削減

 スマート農業実証プロジェクトではスマート農業技術の導入によってほぼ全ての地区で、労働時間の削減効果がみられたということ。

 特に野菜や果樹などの収穫期や沢山の労働力が必要となる労働集約的な品目での大きな労働時間の削減効果がありました。

 

■スマート農業で実現できる方向性(2) 高収益化

 労働時間の削減効果を活かし、高収益化につなげている例もあります。

例えば、生産者が営業活動を自ら行い新たな商流を作り、販売価格の4割上昇につなげたり、付加価値向上の取組や、収益性の高い品目の生産挑戦が出来るようになった農家も出ています。

 さらに、労働集約的な営農類型である施設園芸では、温度や湿度などを先端技術で調整する統合環境制御技術等を活用することで、生産管理を高度化しつつ、2割以上の増産に結び付け、機械費用の増加を上回る収支改善効果を生み出す地区もみられています。

 こうした経営改善効果のほかにも、一部の地区では、平均収量を維持しつつ肥料費を削減するなど、売り上げを積み上げるだけではなく、経費を削減する試みも生まれ、より持続可能な農業生産に貢献する効果もみられています。

■スマート農業で実現できる方向性(3) 多様な働き方・人材採用の変化

 単純な労働時間の削減効果、高収益化以外にも、スマート農業を推進することにより、非熟練者にも熟練者と同様の作業が可能になり、就農者の幅を広げる効果もあったという事でした。

 また、スマート農業を推進するために若い農業者が中心となって、データ利活用のための専門組織(ICT改革チーム)を組織し、過去の作業データを基に、適期に作業ができるような人材配置をおこなう取り組みを始めたなど、スマートの農業の取り組みをすることにより、農業に新しい人材登用と人材ニーズを生み出し始めたということが成果として生まれています。

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