■大ヒットの工具生んだ 「MPDP」活用
頭のつぶれたネジも簡単に外せるプライヤー(ペンチに似た工具)「ネジザウルスGT」。年間1万本売れればヒットといわれる工具の世界で、20万本以上を売り上げる“大ヒット商品”だ。開発したエンジニアの高崎充弘社長は、独自の開発、マーケティング理論をもつ。生き残りに向けた市場戦略を聞いた。
--2009年のネジザウルスGTの開発は、異例ずくめだった
「ネジザウルスシリーズは以前から投入していたが、業者向けで出荷も頭打ちだった。そこにリーマン・ショック。企業は工具の購入を必要最小限に絞った。家庭にもネジを使った製品は多い。家庭でも需要はあるはず、と考えスタートした」
--ニーズ調査での少数意見から生まれた
「欲しい機能をアンケートした結果、『頭部の高さが低いトラスネジも回せたら』という意見が5位に入った。人数でいうと1000人中で7人。でも試作品をつくってみたら、一番反応がよかった。1、2位に入るようなニーズは誰もが気づき、サプライズ感がない。わずかな人が気付く潜在的なニーズで、時代の半歩先を行けると感じた」
--大ヒットを分析すると
「マーケティング(M)、パテント(P=特許)、デザイン(D)、プロモーション(P)がそろったことだと思う。頭文字を合わせて『MPDP理論』と呼んでいる。マーケティングのあとは特許を取り、デザインを決め、社員でテーマソングを歌うなど販売促進をした。これらがうまく回転したと思う」
--独自理論の構築に至った経緯は
「この会社を継いでから20年間で800品番近い商品を開発したが、売れなかった。分析するとマーケティングだけで勝負したり、特許を取っただけで満足したりと何かが欠けていた。いいものを作っても、売れるとは限らない。4つの要素の融合が必要だと気付いた」
--中小企業にとっての課題は
「4要素のうち、パテントは中小企業が弱いところ。他は大企業と差はない。弊社では従業員30人中、9人が知的財産管理の技能検定を取得した。来年には、ほぼ倍増させる計画だ。欧州では、中小企業でも独自ブランドを築き、世界有数のメーカーになっている会社も多い。日本でも下請け事業に依存せず『メーカー』を目指す中小企業が増えている。中小企業の飛躍に、MPDPを活用していきたい」(内山智彦)
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【プロフィル】高崎充弘
たかさき・みつひろ 東京大工学部卒。1977年三井造船。ディーゼルエンジン技師として勤務後、87年家業の双葉工具(現・エンジニア)入社、2004年社長就任。グッドデザイン賞や全国発明表彰など数々の賞を受ける。58歳。兵庫県出身。
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【会社概要】エンジニア
▽本社=大阪市東成区東今里2-8-9
▽創業=1948年4月
▽資本金=2000万円
▽社員=30人
▽事業内容=作業工具、精密機器の製造、販売