調査によれば、首都圏サラリーマンの通勤時間は平均片道1時間といい、年間約500時間を非生産的な満員電車の中で過ごしていることになる。平均が500時間だから中には600時間超を電車の中で過ごしている奇特な人もいるわけだ。しかし、もしあなたが事務処理能力以外に独自のスキルや技術を持っていれば、この500時間を無駄にすることなく、家族と過ごしたり、趣味や自己研鑽(けんさん)の時間に当てて、より人間的で豊かなライフスタイルを謳歌(おうか)することができる。夢のような話ではある。
かつて米国のアップル本社でこんな話を聞いたことがある。基本的に会社と従業員は契約で結ばれており、従業員はその才能とスキルを会社に提供し、会社は対価として従業員に給与を支払う。契約の証しとして会社は従業員に個室または机と専用電話を付与し、従業員はその与えられた環境の中で仕事をする。これが米国でも一般的な雇用関係の姿だ。だが、アップルには机も専用電話も持たない正社員が何人もいるという話だった。なぜなら彼らはほとんど会社に来ない。机と電話の代わりに専用のメールアドレスを付与され、メールと携帯電話だけで仕事をする。会社が要求する仕事を期日までに納めることが雇用関係を維持する唯一の条件なので出勤する必要はない。どこでいつ働こうとも、やることさえやれば会社はそれ以上問わない。
形はちょっと違うが、最近は日本でもスタートアップ企業などがクラウドソーシングを利用して社外の人材を積極的に活用している。社外の優秀な人をスカウトしたいという意図ではなく、あくまでも社外の人間として彼らの才能だけを経営に生かそうという試みだ。クラウドソーシングとはネットを利用して不特定多数の中から、その仕事に興味のある人を募集して、雇用関係を結ぶことなしに、仕事を発注する仕組み、つまり下請けの募集である。