■誰にでも分かるデザインを
--印象深い自身の作品は
「(フォークとスプーンを一体化した)名古屋のラーメンチェーン店『スガキヤ』のラーメンフォークをはじめ、化粧品の容器や文具、手袋など数多くの製品を手掛けてきた。企業や団体のロゴマーク、キャラクターのデザインの仕事もさせてもらったが、シャンプーとリンスのパッケージデザインでは識別しやすいように工夫した」
--具体的には
「普通は商品名やブランド名が容器に大きく書かれているが、容器の中央部に『シャンプー』や『リンス』の文字をあえて大きく表示した。さらにノズルの色を別々にした。それだけでなく、文字の下に「●」といった黒い丸印をシャンプーには1つ、リンスには2つ付け、小さな子供や外国人も識別できるようにした」
--そこまで分かりやすさにこだわった理由は
「私自身が洗髪中にシャンプーを使おうとして、誤ってリンスの容器を取ってしまった経験がある。容器に書かれた文字が小さいから取り違えてしまった。消費者にすれば商品名やブランド名よりも、並べて置いたときにどちらがシャンプーなのかリンスなのかが、浴室内でもすぐに分かることが、より重要だと考えた」
--商品名を小さくすることにメーカーは納得したのか
「このデザイン案をメーカーに提出して考え方を説明したところ、社長に『確かにそうですね』と言ってもらい、受け入れてもらった」
--いつ頃の出来事か
「私がまだ20代半ばだったときのこと。若い自分の考えをどう受け止めてもらえるか、どこかで心配な気持ちがあった。でも経営幹部のみなさんが、それまでにはなかった新たな提案に真剣に耳を傾けてくれた」(松村信仁)